Piece14



「なら、別に」
「概ねっつったろ。最後まで聞け。魔晶石を、ってことは原動力はつまり誰かの魔法だな? あれだけ重いものを持ち上げて動かす魔法なんて言ったら、相当なもんだろ。強力な人間がいるなら別だが、通常は複数人でどうにかするもんだ。そのへんはどうなってる」
「そこは話をつけてある人がいる。その人一人に任せるつもりだ」
「信頼出来んのか?」
「人間性の面でならあんたほどじゃない」
 ラオコガは笑ってちくりと棘を刺した。ギレイオは面白くなさそうに顔をしかめ、言葉を続ける。
「じゃあ体力の面でなら? もしくは気力の面でもいい。それは信頼出来るもんなのか? 魔晶石は魔法を発現させるための道具でしかない。しかも発現の威力は魔石と比べて馬鹿でかい。てことは、万が一そいつに何かあった場合の反動がでかいから、普通の飛空艇は魔晶石なんて危なっかしい物を使わないんだ。俺が非常識だって言うのはそういうことだよ」
 飛空艇の原動力には大体が機械的なエンジンを用い、それを主とした上で、補助的な意味から魔法も据え置くのが一般的な組み合わせだった。その方が、どちらか一方に不具合が生じた時、全く体系の違った物同士であれば、もう一方は無事である可能性が高いからだ。片割れを補うべく、安定した動力を提供し続けることが出来るのが、この二つとされている。馬力が高すぎるでもなく、低すぎるでもない、均衡の取れた関係を維持出来る分、魔石にはりついていなければならない人間への負担も減る。
 無論、魔晶石による飛空艇の運用がないわけではない。通常は複数の魔晶石を用いて、複数人による魔法の発動を目指すことで個々の負担を軽減する。その力はやはり、他を圧倒するものだった。何よりも速く、何よりも機動性に優れる。
 だが、問題が発生した時の脆さまでもが他を圧倒していた。機械のような故障は起きにくいが、ヒューマンエラーは発生しやすく、それは飛空艇の安全へ驚くほど率直に影響するものだった。それを防ごうと思えば代替になる人間を複数人、準備しておく必要があるが、それでは採算が合わない。だから、魔晶石のみの単一機関に頼った飛空艇の製造は、よほどの酔狂でなければ誰も取り扱わない代物なのである。
「元々、魔石だけで動かそうっていう話もあって、実際使われたこともある。だが結果的には今言ったことと同じことだ。人が関わる分、リスクも高くなった。だから、エンジンと魔石の二つで補い合う、今の形が増えたんだ。魔石でそんなもんなのに、魔晶石一本で、しかも一人に任せようってのを非常識だって言うのは間違いじゃねえだろ」
 しばらくギレイオの言葉を吟味するように聞いていたラオコガだったが、やがて、隣りでぽかんとして聞いているアインに顔を向けた。
「どうもお前は話のわかる奴を連れて来たみたいだな」
「……修理屋でそこまで知ってる人なんて初めて見た……」
「てめえは人のこと泥棒呼ばわりしたくらいだもんなあ」
 素直に驚くアインの姿がギレイオの神経を逆なでした。どこまで自分は人でなしだと思われていたのだろうか。
 隣に座していたサムナがギレイオへ問う。

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