Piece14



 そんな男の気持ちが伝播したのか、周囲を固めていた人々の空気もほんの少し和らいだ。異邦人を見る目から、見知った人間を見る目へと変わっていく。
「……立ち話で進めるような内容じゃない。もう少し落ち着いて話そう。遅くなったが、俺はラオコガ」
「俺はギレイオ、あっちはサムナ」
 簡単に自己紹介を済ませ、ラオコガはこっちだ、と言って神殿の隅へと移動する。
 事態の収束を感じた人々はそれぞれの持ち場に戻り、それとなしに三人へ視線を投げかけるが、どちらかというと静観を決め込んだようだった。再び、色んな騒音が神殿の中に戻ってくる。
 一人、置いて行かれたアインは急展開な事態に目を丸くしていたが、先を行くラオコガに大声で呼ばれ、慌てて階段を下りて行った。当事者として説明をしろ、ということらしいがそれも当然である。
 彼らを──もとい、この場にいる全ての人間を飛空艇製造に巻き込んだのは、アインなのだ。
 神殿の隅には簡単な仕切りを置いて、事務仕事を片づけるための場所が作ってあった。本当に簡単な造りなので、ただ単に、この仕切りの内部には工具類を置くな、という主張しか見えない。勿論、中も簡素なもので、机と椅子がいくつか、書類の束をしまっておく箱が脇に置いてある程度だった。物置でももっとマシな造りのものがある、とギレイオは内心で思う。
「で、何が欲しいんだ」
 内心はさて置いて、椅子に腰かけたところで早々にギレイオは本題に入った。だが、相手も急いでいるらしく、唐突な本題の入り方に異を唱えるでもなく、アインが答える。
「さっき、あなたが言った通り、中身の部品が欲しいの。動力になる魔晶石を」
 ギレイオはその答えを予想していなかったようで、一瞬、言葉を失ってから問いかけた。
「待て、魔晶石っていうのは」
 アインは怪訝そうに首を傾げる。
「知らないの?」
「そうじゃなくて、飛空艇の動力に魔晶石を使うのか? それだけを?」
「そうよ」
「機械でも魔石でもなく?」
「不安定だって言いたいの?」
「……随分、非常識な動力部を作るもんだなと呆れたんだよ」
「非常識でも何でも、馬力は素晴らしいわ。それに、あの飛空艇はそのための飛空艇なんだから、他の動力じゃ心臓の方が体に劣るわよ」
 さも当然といった顔でアインは答える。ギレイオが呆れた理由には考えを巡らせることもしないようだが、対するラオコガはギレイオの思考を汲み取ってくれた。
「魔晶石だと力が出過ぎると言いたいんだろう」
「馬力があるってのはそりゃいいことだけどな」
 溜息混じりにギレイオは言った。
「ついでにその馬力についていける体があるのは、それもいい。クリアするべき課題は概ねクリアされてる」

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