Piece14
不思議そうに問われると、尚のこと腹が立つ。アインは再び言いかけてやめた。これ以上単純な言葉はないし、自分が腹を立てている理由を原因に向かって説明してやらねばならない状況というのは、それはそれで腹立たしさが増すというものだった。
深呼吸して冷たい夜気を体内に巡らせる。頭の芯がほんの少し冷えたところで、アインはようやくたどり着いた二人を見上げた。
「私に合わせて急ぐって気はないの?」
「急げって言うなら急ぐけど。お前言わないし」
「言わなければわからないの?」
「言われなくてもわかるけど、言うほどのものでもないんだなと思って配慮するのはやめました」
「協調性って知ってる?」
段々、イライラしながらアインは問うていた。当人たちはどうして質問を繰り返されているのかわからない、といった風にきょとんとして答えている。
「言葉の意味ぐらいは。お前だってわかるよな」
「意味を知りたいのか?」
「意味を行動に移してほしい、って言ってるのよ!」
ああもう、と腹立ち紛れに踵を返し、神殿の階段を上る。その後ろをやれやれといった風にギレイオらはついていき、出入り口を前にしたところでようやく気付いた。戸板がないと思っていた出入り口には、内側から分厚い暗幕が垂れ下がっているようだった。そのため、遠目には戸板がなく、中に巣食っているのは暗闇であるかのように見える。古めかしい神殿には似合わない造作であり、そこには何がしかの意図が見えた。
アインはおもむろに暗幕を掴むと、さっとめくる。中からは人工的な光が溢れだした。
「特にここでは、協調性は大事にしてね」
言いながら二人を中へ誘う。
神殿の内部には多くの人がいた。神殿が石造りであることが幸いしたのか、その人いきれが外へ気配となって漏れ出すことはないようで、実際、場数を踏んだギレイオだけでなく、サムナさえも中へ入るまではそこに多くの人がいることには気づけなかった。
そして沢山の明かりに照らされ、人々の行動の中心にある物の気配にも。
「……なんだこりゃ」
さすがにギレイオも唖然とするばかりで、それしか言えない。
神殿は見た目以上に奥行があり、神殿内をぐるりと囲った短い階段によって、実際の地面よりも床が低くなっている。そのためか、不思議と狭苦しさは感じなかった。屋根の残った天井も思いの外高く、そこには配線を巡らせて多くの照明がたかれている。
その明りに照らされて、錆びた色を放つのは飛空艇だった。
ギレイオもこんな間近で飛空艇を目にするのは初めてだが、遠目に、あるいは空の上で眺める程度には知っている。下膨れの鍋の両端と持ち手、そして底に羽をつけたような形で、今まさに、ギレイオが前にしているのもそれと同じ姿だった。ただし、あちこちが朽ちて損傷し、まともな形を成していない所もある。羽の部分など骨組みが残っていれば良い方のような状態で、唯一真面目に形を伝えているのは鍋のような胴体部分のみであった。
それが、錆の奥から光を放ち、訪れた客人を迎えた。
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