Piece14



「捨てた所に戻って直すってどういう神経だよ」
「捨てきれなかったから直すんじゃない? なんだか不服そうだから、一つ突飛な仮説があるんだけど。聞く?」
 ギレイオは両手をポケットにつっこんで歩きだし、「どんな」と気のない返事を寄越した。その後をサムナも続く。
「ここは死者のための街だったって話。要は墓場ね。死後の世界を模して造られた街で、建物の一つ一つに死者を埋葬していたんだって。実際、壊れた石材なんかを見ると、人が暮らすにはちょっと小さいのよ。人が眠るのにそんなに大きい家はいらないでしょ」
「……墓場ねえ」
 アインの隣に立った所で、ギレイオは背後を振り返る。
 白い月の光がなめる平原には巨石が点在し、人の営みなど見る影もない。否、元々、営みというものが死者に寄り添ったものであるのなら、それも当たり前と言えるのだろうが。
 頬をなでる風が心なしか冷たい。
「それで死人をほっぽり出して消えたってか?」
「その仮説だと、死人が一定の数を越えたからって事みたい。その数を越えて埋葬を続けると、生者の世界に干渉するとか何とか、昔話も絡んでよくわからなかったけど」
 ピエシュに聞かせてやりたい、とギレイオは苦笑した。彼女の豪胆さなら、死者も生者も関係なくやっていけそうだ。
「神殿は死者を見守るための所で、だからここを放棄しても度々、手入れに来ていたんじゃないかって」
「……やっぱ俺には理解出来ねーわ」
 ギレイオは宙に視線を投げてぼやいた。これには、ここまで説明を続けたアインもさすがにむっときたようで、攻撃的な口調になって問い詰める。
「なら、あなたは何なら理解出来るの?」
 既に歩き始めていたギレイオに駆け寄り、アインは見上げた。
 そんなアインの挑むような視線を容易く受け止め、ギレイオは答える。
「ここをどう捉えたところで、俺にもその辺を転がってる石にも関係ねえだろ。ただまあ、虚構の街っていうなら多少は理解の範疇だ。お前がさっき言った、その例えは割としっくりくる。それ以上の説明は俺には無理」
「……じゃあ、何も理解出来ないってことじゃない」
「……さっきからそう言ってるじゃねえか」
 ここでようやく意思の疎通を果たせたところで、二人はじっとりと互いを睨み付ける。
 とことこと歩いてくるサムナを振り返って、腹立ちまぎれにアインは同じ質問をぶつけた。ギレイオよりは親身になって話してくれそうな雰囲気がしたからである。
「理解?」
「そう、何なら出来る?」

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