Piece14



 ガイアには首都であったころの名残としての遺跡が多い。一方、マトアスには街の名残としての遺跡が多いものの、その大半がガイアよりも早くに人の営みから外れた事によって、崩壊の道を粛々と進んだ結果を晒しているに過ぎない。
 どうやら破壊された気配もなく、自然災害にあったような痕跡もない。単に、人がここを放棄したと考えるしかないほど、街としての命を静かに終えていた。
 その理由となるべき原因もわからず、ただ「放棄された街」の遺跡がマトアスには多いのだ、とアインは言う。
「流行病があったわけでもなさそうだし、当時は“異形なる者”よりは人間の方が脅威だったみたいだけど、近隣で巻き込まれそうなほど大きな戦争があったわけじゃないし。本当に、ただ単に、ぽんって捨てられたみたい」
 ごみじゃあるまいし、とアインの形容に突っ込みを入れたくなったが、ギレイオは堪えた。
 確かに、歩いていて感じたのは戦場のような荒廃した空気ではない。
 ただただ、寂しい。荒んで乾いた感情を呼び起こすのではなく、心に重みを落として過ぎ去ってしまうような寂寥感を胸の奥で震わせる。
──人が消えると、こういう感じになるのか。
 他人事のように内心で呟いてはみたが、それはギレイオも予想しないほどの重みを自身に与えていた。
 アインはそれには気づかずに続けた。
「直し続けた人がいる、っていうのも、らしいっていうだけで本当かどうかはわからないの。でも、明らかに保存状態が良いでしょう? だとすると、定期的に誰かが様子を見ていたとしか思えない、ってこと」
「神殿だからということだろうか。信仰が人をそうさせるという話もあるようだが」
 サムナが口を開くと、アインはびっくりしたようにサムナを見た。どうやら、あまり話さない男だと思っていたらしく、そう思っていた自分も、そして興味を示して話に参加してきたサムナもおかしく感じたようで、笑って答える。
「それもあるのかな。でも、ここはエデンじゃないし、それほど宗教に執着した街じゃないのよね。ガイアには行った?」
 サムナは頷く。
「武術と宗教はなかなか結びつきにくいわ。一度、線が繋がれば厄介なものだけど、ここではそれはなかったみたいね。だからあの神殿もそんなに大それたものじゃなくて、たまにお祈りを捧げる場所とか、懺悔するための場所とか、そういう場所だったみたい」
「それを直しにわざわざ?」
「信仰が人をそうさせる話がある、って自分で言ったのに、それを尋ねるの?」
 不思議そうに問われ、サムナは少しだけ視線を落とした。
「……自分では理解しかねるから、どうだろうと思った」
「俺には単なる酔狂にしか見えねえけどな」
 サムナの代わりにはっきりとした口調で答えたのはギレイオだった。

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