Piece14
「どこが? 私が言ってるのは、遺跡に残った記憶の凝りまでも全部さらっていくような連中の気が知れないってことよ。その後に残ったものなんて、それこそ虚構でしょ。遺跡とは呼べないわ」
「……だが、これらをこのようにした人々の記憶は残っているんじゃないのか」
サムナがぽつりと呟くと、アインは遠くに一本だけ立つ柱を見つめて、小さな声で応えた。
「……記憶も風化しちゃうのよ、こんな風になると」
冴え冴えとした月の光が、虚構の石たちを白く照らし出す。
道は分岐することなく、三人をある建物まで導いていく。
道の先にあるそれも、辺りに残る遺跡と同じ時代の代物とわかる。だが、保存の度合いは群を抜いて良い。所々、風化して崩れている所もあるが、建物としての形は失っていなかった。
どっしりとした石の重みを感じさせる柱は太く、備わった威厳は長大な時間の経過を忘れさせる。風化した壁も崩れている屋根も、建物が持つ独特の空気に力を与えるのみで、まるで老練の戦士を前にしているようだった。
これには思わずギレイオも立ち止まり、しげしげと見上げる。
「……なんでこれだけ無事なんだ?」
前を進んでいたアインが振り返って、不思議そうに首を傾げる。
「どうしたの?」
ギレイオは建物を指さした。
「なんで、それだけ無事なのか疑問に思ってたところ」
アインは建物を振り返り、ああ、と言って顔の緊張を緩めた。
「そっか、あなた達、ここの人じゃないんだもんね」
「地元民なら知ってて当然ってやつ?」
「知ってたところで大したことじゃないけど、知らない人の方が少ないのは確かよ。ここは放棄された街なの。それは知ってる?」
「いや、初耳」
「興味なさそうだもんね、あなた」
「人の事、学がねえみたいに言わないでもらえませんかねえ?」
アインは呆れたように息を吐いた。
「その年で僻みっぽいのねえ。子供みたいって言われない?」
「あ?」
「まあ、いいけど。あの建物は神殿とか、そういうものだったみたい」
話の矛先をあっさり変えられ、それ以上食いつくことも出来ず、ギレイオは不完全燃焼気味の気持ちを溜め息と共に吐き出す。
「放棄された街とそれがどういう関係なんだよ。普通、放棄されたんなら、あれだって他と同じように壊れてもおかしくねえだろ」
「それは、直し続けた人がいるから」
「……は?」
「放棄された理由は特にわからないの。こんな田舎にしては研究者が多いでしょ? それを突き止めようって人が多いのよね」
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