Piece13



 ギレイオは「襲撃された」と言っていた。足がついたのは自分のせいだ、とヤンケも少なからず責任を抱いて協力的になった面もあるが、その時、ヤンケは襲撃者についてはさしたる関心を持たなかった。ギレイオも話すつもりはなさそうだし、ゴルも特に話すつもりはなかったようで、それなら、自分が根掘り葉掘り聞くことでもないだろうと思ったのである。第一、あの時は気分が悪くてそれどころではなかった。
 だが、よくよく考えてみれば疑問点はいくつもある。普通の人間に、あの二人を襲撃して撤退させるだけの武力があるだろうか。数の面では圧倒的に不利な二人ではあるから、高レベルの魔法を使える大隊規模の人数を揃えてくればわからないでもないが、そんなことをすれば街は戦争になる。とりあえず世界の表も裏も平和なようなので、それは考えられない。
 では、少数精鋭、ピンポイントで攻撃を仕掛けられる顔ぶれとなれば、ヤンケが思い当たる人種は二つしかなかった。一方は神殿騎士団だが、それならギレイオが悪態の一つでもついていそうなものである。
 ならば、あの兄弟子が悪態もつけぬほど痛めつけられた相手というのは、残るもう一方の可能性だ。
──サムナと同じ。
 機械仕掛けの「人物」ということになる。
 ヤンケは立ち上がり、駆け足で自室に戻った。そして椅子の上に飛び乗って、あぐらをかいてディスプレイに見入る。
「もし、同じなら……」
 向こうはヤンケの元に、サムナがいることを知っていたはずだ。
 知っていて、これを寄越した。
 ならば、鍵はサムナにある。
 鍵、と考えて思いつくのは例のブラックボックスしかない。ヤンケはサムナの中身を調べた際に、ギレイオの許可を取って、あの正体不明なブラックボックスのコピーを試みたのである。特殊な鍵のかかったファイルだからどうかと思っていたが、難なくコピーは終了し、今もヤンケのコンピューターの中で異彩を放って存在し続けていた。
 とりあえず、送られてきた「ヒント」を元に「日記」を読むまでは、と後に回していた。自爆させてしまうようなものなら、きっと今は開ける時期ではないのだろう、と考えることを余所に置いていたのである。
 ブラックボックスはやはり、黒々とした顔をこちらに向けるばかりで、何の感動も呼び起こさない。コピーが可能なら、サムナとはリンクが切り離されたと考えてもいいだろうが、全てが特殊な事例に彩られた現状である。心配に心配を重ねても多すぎるということはないはずだ。
 念のためにコンピューターの外部からのアクセスを全て遮断し、完全なスタンドアローンの状態へ持ち込む。よっぽど無茶苦茶なプラグラムが施されてなければ、これでサムナの元に妙な信号が送られることもないだろうが、念には念を込めて妨害用の信号も出しておく。ついでにあれもこれも、と、こちらから発信されることのないよう、思いつく限りの防御策を施した。

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