Piece13



 ネウンのこともよく知らず、勝手に対抗心をむき出しにして、大きな口を叩いてしまった。きっと、その言葉を彼も信じてくれたに違いない。だから、こんなに多くのヒントもくれた。必ず、ヤンケが日記を読めるようになると思って。
 それに応えられない自分が悔しく、恥ずかしい。出来ることなら穴の中に入って、埋まって、誰にも知られないところでひっそり息を潜めて暮らしたいくらいだった。もっとも、それは今の生活とあまり変わりはないのだが。
 体の中に鉛が溜まっているようである。溜め息をつけばつくほど、自分の実力に落胆すればするほど、その鉛は重さを増し、ヤンケの体を椅子に縛り付ける。強迫観念のようにディスプレイの前に座り続けているが、座ったところで答えが出てくるわけではない。アイデアも知識も枯渇していた。
 それでも口をついて出る溜め息は止めようがない。これまでは、いない方がせいせいすると思っていた兄弟子も、今は側で適当な事を言って自分を怒らせてほしいと思うぐらいだった。
──いや、それは結構、キてるな。
 いくらなんでも、と頭に去来した想像を振り払い、ヤンケは思い切って席を立った。ここにいたところでしょうがないのなら、離れた所でも考えられるはずである。
 部屋を出、メインホールへ赴いた。そこではゴルが、ギレイオが開けた穴を直し、補強しているところだった。次に来た時、二度と壊されないようにするためである。
 次、と自然に考えているあたりが、ヤンケにはおかしくて仕方なかった。無論、そこには自分も含まれる。今までは抱くことのなかった感覚だった。ギレイオにもう一度会いたいなどと思う日が来るとは、過去の自分ならば想像を絶する光景だったに違いない。
 ついでに、と思い返してヤンケは要塞の外に出る。暗い空間に水の音が静かに響いていた。
 あの寡黙な相方とも、もう一度話してみたい。やはり、ネウンは彼に似ていた。そのことを話しても、きっと何の感慨も抱かないだろうが、そういう人物がいると教えたらどうなるだろう、という興味があった。
 しかし、そこでふと、人物という単語の登場に、ヤンケは微かな違和感を覚える。言葉そのものに変容を感じたわけではない。ただ、今の文章に「人物」という言葉は妙にそぐわない気がしたのだ。それも、ネウンのことを思えば思うほど、「人物」という言葉からはかけ離れていく気がする。
 ヤンケは首を捻り、片づけたと称して、ただ寄せ集めただけの瓦礫の一画に腰かけた。
 同じように、サムナに関して「人物」という言葉を当てはめても、やはり妙な違和感は残る。口にして喉にしこりが残るような、その言葉だけでは汲み取りきれない意味を、置いてきてしまうような違和感だ。サムナに関して言えば、「人物」という言葉には決定的な意味が欠けている。中身は半分機械で出来ているのだから、と意味の後付けをすれば、しこりはたちどころに消えていく。
──では、同じなら?
 ネウンはサムナに似ている。返せば、サムナはネウンに似ている。つまりは、違和感の正体も、後付けされるべき意味も、同じではないのか。

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