Piece13



 件の住所はそんな住宅街の中で、遺跡家屋が多い界隈にあった。そこまで来ると中心部からは遠く離れ、喧騒も届かない。緩やかに傾斜を描いた道から背後を振り返ると、夜の海の底で小さな宝石が輝いているように見えた。もっとも、あそこで振る舞われているのは肉汁滴る肉や、酒や、時折思い出したように知性を漂わす品物だったりするのだが。マトアスは様々なギャップが同居する街のようである。
 家は思いの外、あっさりと見つかった。現在は誰も住んでいないようで、その右隣は穏やかな四人家族、左隣はどうやら空き家らしく、そこから先も空き家がちらほらと増えていくようだった。適当にその辺を歩いていた通行人を捕まえて聞けば、どうやらギルドが借り上げて冒険者に提供している家屋があるらしい。こちらに用事がある冒険者に使わせ、家賃収入を得る。無論、格安で使えるので、長期滞在には向いているが、短期では宿には負けるようだった。しかも、冒険者となれば時間も不安定な人間が多い。そのため、自然と空き家然とした家屋が増えるわけだが、その半分は一応は人が入っているということだった。
「人が出たり入ったりって物騒じゃねえの?」
 ギレイオがごく自然に湧き上がった疑問を口にする。気づけば見知らぬ他人ばかり、というのはきつい冗談だ。
 だが、通行人の男は笑って答えた。
「元々、ここはそういう所だから大したことないよ。遺跡の発掘にきた学者先生なり労働者なりが、入れ替わり立ち代わりで入るような家ばかりだし、その中で定住を決めこむ奴らだっているしな。それが冒険者になったところでこっちの生活にはさして問題はないさ」
「へえ」
 それから二三、言葉を交わして、別れを告げる。ここはどうやら、見知らぬ他人が住み着いてもすぐに受け入れられるだけの素地が出来上がっているようだ。
「……ま、選択としちゃベストだな」
 そう呟いて、ギレイオは予感を確信に変えていった。
「お前、見覚えあるか?」
「いや。特にはない」
「これでわかるなら苦労しねえってことか……」
 ギレイオはぼやきながら人気がないのを確かめ、ドアノブに手をかける。案の定、鍵はかかっていた。だが、少し力を込めると軋む音がする。サムナに任せればいささか乱暴な手段にはなるが仕方ない、と相方を振り返ろうとした時、視界の端に小さな影が入った。
 ギレイオもサムナも声を上げる間もなく、影は甲高い声でまくしたてる。
「あなたたち泥棒?」
 年のころは十ばかり、体に合わない服を着た少女が、険を含んだ目つきで大の男二人を見上げていた。



 青白い光を垂れ流すディスプレイが、いくつか命令文が入力されては消され、今度は違う言葉が入力されては消され、を繰り返す。もちろん、ディスプレイが壊れたわけではなく、彼に出力させるための機能が壊れたわけではない。彼らは真っ当に職務を果たしている。

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