Piece13



 今のところ、ギレイオはそうやって反れていった水の方を馬鹿とすることで、自らを慰めているのだが、肝心なことにギレイオの考えはそこまでに至ることを拒否し、水の流れを遠くから眺めるに留まっていた。
「……大丈夫か、ギレイオ」
 低い声に呼び掛けられ、ギレイオは顔を上げた。見れば、サムナがこちらを振り返っている。そういえば次で最後だ、などと話していたことをギレイオは思い出した。思い出した途端、忘れていた疲労が押し寄せてくる。
「……悪い。大丈夫だ。ここまでハズレばかりで疲れたのかもな」
「明日に回すか? もう日暮れも近い」
「日が暮れてくるからいいんだろうが。外に出てた連中も戻ってくる」
 行くぞ、と気持ちを切り替えるように息を吐きながら言い、サムナを追い越して歩き出す。
 次がハズレだった時に、また考えればいい。今までもそうして能天気にやってきたじゃないか、と、ギレイオは心の隅で冷えた塊に向かって呟いた。
 目ぼしい情報も掴めないまま、日は暮れようとしていた。マトアスに着いた時点で既に昼を大きく過ぎており、遅い昼食をかっ込んだところで夕方に片足を突っ込もうかという頃合いだったのである。それから聞き込みを始めれば、時間は自然と日暮れに近くなる。だからといって食事の時間をなくそうという選択にはならないのが、ギレイオらしいと言えば、らしかった。
 日が暮れ始めると、案の定、外に出ていた冒険者たちや、ガイアで遺跡の調査をしているのだろう調査団、そして物見遊山から帰ってきた観光客や、マトアスの住民などが、それぞれ話に花を咲かせながら戻ってきた。途端に道は人で溢れ、そんな彼らを目当てにした店も自然と活気に満ちてくる。日が沈み、月が昇り、昼は眠っていた外灯に明りが灯ると、活気はより本格的なものになっていった。だが、どこか枠に収まったような賑やかさは、マトアスならではだろう。理性が本能に負けない連中ばかりらしい。
 屋台の匂いの誘惑に打ち勝ち、さざめくような活気を後にして、ギレイオとサムナは街の中心部から離れた住宅街へと向かう。候補の中では最も人気の少ない場所で、流離人らしい選択ではあるが、これまでとは一線を画す環境に自然と緊張が走る。
 住宅街は新しく建てた家屋と、遺跡をそのまま利用した家屋の二種類があった。前者は近代の色が見え、後者は時間の色が映る。どちらがいいということもなく、どちらも街に合って素朴な雰囲気を作り出していた。
 夕刻ともなって窓からは明かりが漏れ、通りを走る子供たちや、そんな彼らを呼ぶ母親の声、辻で立ち話をする男たちといった風に、こちらにはこちらの賑わいがある。しかし、家庭的な賑やかさを漂わす住宅街において、ギレイオたちのような余所者は嫌でも目立った。道に迷ったのか、どこに泊まってるのか、それなら送ってやろうかという親切を丁重に断りつつ、時に無視しつつ、足の動きは自然と速くなる。

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