Piece13



 食事を終え、ヤンケが苦心の末に調べあげた、ソランと思しき人物が使っていた家屋をあたる。人の出入りを辿って調べたものであるため、候補とされる場所はいくつかあった。それでも、片手で足りる数で済んだのはヤンケの努力の賜物と言ってもいいだろう。
 集合住宅の中、元は店を営んでいた所、と、当たれば当たるほどに身を隠すつもりがなかったことに気づく。候補とされる場所はどこも人の生活のすぐ側にあり、あえて人目を避けて行動しようという意志は見られなかった。
 既に住人が入っている所では先に住んでいた者について知らないか聞いてみたり、空き家のままの所は近所をしらみつぶしに聞いて回る。前者では交渉力が物を言い、後者では脚力が物を言い、両者どちらも共通するのはそんなことを聞くギレイオらを不審に見る目だった。確かに、数年も前の話を今更ほじくり出して聞こうなどという真似は、ギレイオ自身、無関係の立場にあればどんな酔狂かと言って馬鹿にしたことだろう。無論、今は自らを卑下して笑っていられる余裕はない。
 ソランが生きているか死んでいるか、ヤンケの所では結局、結論は出ないままだった。マトアスに辿り着けば、自ずと見えてくるだろうとその時は答えを先送りにしたのである。しかし、ここに至るまでの道中、そしてこうして聞き込みをする最中にも、ギレイオは彼は既に死んでいるのではないかという疑念を濃くしていった。生きているのなら問題は一瞬で片付くが、死んでいるのなら問題は新たな道筋を作り出し、ギレイオはその道を前に茫然とするのではないかと危惧していた。そうなれば、個人で動き回って集められる情報には限界が出てくる。ヤンケが冗談半分で言った「機構」のデータベースに再び侵入するという話に、本格的に乗る状況も考えなくてはならない。
 そこまで話がややこしくなるのは、ギレイオとしても願い下げだった。
 自分はただ、修理屋と冒険者としての生活を平穏無事に過ごしていきたいだけである。その邪魔をするのがエインスらであるのなら排除するし、その為の力が足りないというのなら尽力し、サムナに関する様々な事がその障害となっているのなら、障害を取り除くために奔走する。ゴルの世話になったのも、ワイズマンの所へ赴いたのも、そしてここまで来たのも、全て単純な日常を取り戻すためだった。そのついでに「機構」の人間を何人か殴り飛ばせれば、癇の虫も治まるというものである。
──だが、どうも違う。
 どれもこれも、ギレイオの考えた方向とは微妙に違う方へ進んでいる。強引な力が加わってそうなったのではなく、まるで予めそうなるべくして水が流れていくように、自然な動きで方向は変わっていった。ギレイオはただ、その水が流れる筋を知らず──あるいは見定める努力をしなかった所為もあるのだろう。能天気に明後日の方向を臨んで歩いていたら、ふとした瞬間、共に流れていたはずの水は大きく反れて曲がっていた。
 馬鹿だ、と罵ることは容易い。ただし、何を馬鹿とするかで自分の本分が変わってくることは間違いないと、ギレイオは考えていた。

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