Piece12



「弔われることなく死んだ連中を可哀想だとか、哀れに思うことはないよ。そういう巡り合わせだったんだ。薄情と思われてもいいから言うけどね、そこで死んだ奴にはそこで死んだなりの覚悟があったのさ。その覚悟が誰にも知られることなく、無視されることはあたしの道理に合わない。だから腹は立っても哀れには思わないよ。馬鹿だねって言って、ここに弔ってやる」
「……それを一人でずっとやり続けるのか」
 サムナの問いに、苦笑いを晴れやかな笑顔に変えた。
「こんな酔狂、付き合ってくれる奴なんかいないよ」
 笑って孤独を選ぶピエシュの強さが、ここに眠る死者にとっての神なのだろうとサムナは思う。墓守として一人、こんなことを続けていれば、いつかは自分が弔われる側になるかもしれないだろう。その時、自分を弔ってくれる人間が欲しいとは思わないのかとは、サムナは聞かなかった。わざわざ、尋ねるまでもないことである。そんな問いは彼女の中で繰り返し行われ、既に答えが出ているからこそ、ピエシュは笑って自分の行いを語ることが出来るのだ。
 ありがとう、と言い、辞去を告げ、サムナは扉を開ける。ピエシュはその背中に声をかけた。
「気を付けてお行き。死んでもあたしが骨を拾ってやるよ。……手持ちの財産は、埋葬費用と手数料としてありがたく頂戴しとくから、それが嫌ならしこたま使っとくんだね」
 軽い口調で言われ、サムナは微かな笑みを口許に浮かべて頷いておく。なるほど、誰にも知られることのない墓守の資金源はそれか、と納得がいった。
 外に出ると、夜間で冷えた風が地面を吹き渡り、朝靄を追い払っていく。地平線からようやく全体像を現した太陽が所々に凝っていた闇を一掃し、ガラス細工のような花々は、鮮やかな陽光に照らされることで深淵さを増す。光を閉じ込めた花びらがこすれあい、きいん、と澄んだ金属の音を響かせていた。作り物としては上等だが、自然物である分だけタチが悪い。
 陽光が冷えた空気を暖めるまでにはまだ時間がかかるだろう。サムナは自分の頬に触れ、人の肉の下に横たわる金属を思う。骨ほど柔らかくはなく、暖かくもなく、脆くもないそれがサムナを形成する基本的な要素であるなら、つくづく、自分は機械であるのだと思い知らされた。
 それも、人間を模した機械であるという事実が、サムナの中に言いようのない嫌悪を抱かせる。
 小さく息を吐き、家を回りこんで車を停めた所に向かう。ギレイオは既にエンジンをかけ、運転席に座って待っていた。ゴーグルをはめた顔からは、その表情を窺い知ることは出来ない。
 サムナが助手席に収まると、車はすぐに動き出す。何の言葉も交わさずに進みだす車は静かで、いつもこんなものだったろうかと疑問に思うほどだった。
 タイヤが地面を蹴りだし、スピードに乗ったところで不意にギレイオが口を開いた。
「お前、ダルカシュのことを知りたいのか」

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