Piece12



 淡々とした口調で告げるサムナを、ピエシュは表情も変えずに見返し、重みを伴った声でゆっくりと言葉を紡いだ。
「ここに神様はいないよ。いるならとっくにあたしは罰を受けて死んでる。神様の仕事を盗ってるんだからね。でも今のところ、大目玉をくらうほどじゃなさそうだし、あたしも自分がやってることがそれほど馬鹿なことだとは思っていない」
「では、なぜ」
「執念さ。あんた、人が“異形なる者”に食われた跡を見たことがあるかい?」
 真っ赤に染まった大地に、かつては人の形を成していたのであろう肉片が散らばっていた光景を思い出す。たまに見かけるものだが、剛胆を誇る相方も、さすがに顔をしかめていた。サムナ自身はそれを残忍だと思いこそすれ、酷いとは思わない。食事をするのは人間も同じことだし、それなら人間の食事のために解体される動物たちに対しても、残忍と思える心を持たなければ不公平だとすら思う。
 少なくとも、ギレイオはそういうことを公然と言える人間だし、そんなギレイオを模倣する自分にはそう思うだけの判断材料が備わっていることになる。ただし、ギレイオが顔をしかめるほどの感情の機微までは、サムナの中には存在しない。
「一応は」
 曖昧に答えておく。見たことがある、という以上の何がしかの同意を求めているのなら、サムナはそれには応えられないと思ったからだ。
 だが、ピエシュはそれには気づかず、サムナを自分と同じ位置にいる人間として考えたようである。
「あんなのを見ちまうとね、人の尊厳なんてカスみたいなもんだと思っちまう。食う方にしたら尊厳も何も腹には関係ないんだからね。元々、人間もそんなに好きな方じゃないが、そんなのを繰り返し見ていると、じゃあそれまで生きてきた事も無視されていいもんか、ってね。腹が立ったのさ」
 まあ、と言って苦笑する。
「そんなのは手前勝手な言い分だ。あたしに食われる鳥からしたら、じゃあそれまで飛んでいた空を返せって言われるのと同じだよ」
 サムナはピエシュの話に聞き入った。まるで初めて聞く話のように、しかし、新鮮味を感じるほどではない。ただ、これまで理解不能として追いやり、埃を被っていた物が洗われていくようだった。
「だけど、あたしは空を返すことは出来ない。あたしだって生きてるんだし、とりあえず死に急ぐ予定もない。糧としてありがたく頂戴する外ないのさ。それは“異形なる者”もあたしもつまるところ、一緒ってことだよ」
「それでも腹が立つということか?」
「立つね。多分、人間だからだろ。少なくとも人間がどういう言葉で泣いて苦しむのかはわかる。でも鳥の言葉はわからない」
 ただ、とピエシュは苦笑した。

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