Piece12



 食事を終えると早々にギレイオは「出る」と言い、サムナの返答も待たずに車の調整に向かった。元からそのつもりだったために、異論はない。だが、そこまでしてギレイオが急ぐのはここから逃げたいからではないか、とサムナは考えていた。ゴルの所にいた時や、ワイズマンの所にいた時と同じか、それよりもひどい。露呈したくなかったことを、自らの失態によって表に出してしまったことを恥じているのか、それをサムナに知られたことを悔やんでいるのか。
 逃げ方が悪い、とゴルが言った意味はこれか、とサムナは納得した。
 朝靄の立ち込める中、見渡す墓標の波は一段と異様さを増す。陽光によって輪郭を浮き立たせた墓標は否応にも存在感を増し、墓場を取り囲むようにして咲き乱れる花は透明感を際立たせて美しくもあったが、冷徹な表情も垣間見せた。死体を糧にして育ち、地にあれば人を惑わせ、地を離れれば人を殺す。呪いのようなそれから解き放つには、人の持つ偉大なる光が必要というのは、冷徹な表情に反して哀れですらあった。おまけの花という名に込められた無邪気さはむしろ、花に対して残酷かもしれない。
 ピエシュは特に、出発の用意などはしなかった。そうするだけの余裕がないことは家を見れば明らかで、サムナたちにしても求めるつもりはない。考えてみれば、ダルカシュの件があったにしても、ギレイオがピエシュに何の見返りも求めなかったことは不思議だった。目覚めた途端、何かしら要求しても良さそうなものだが、とギレイオに知られたら顔をしかめられそうな事をサムナは考える。それが表情に出たわけではないだろうが、飲み水くらいは持っていってもいい、と、ピエシュは小さな水筒に水を詰めて渡してくれた。
「ガイアまで行くのかい」
「そのつもりでいたんだが、あなたを見つけた」
「恩着せがましい言い方だねえ。まあ感謝はしてるよ。最初は泥棒かと思って驚いたがね」
「どうしてあんなところで倒れていたのか、聞いてもいいだろうか」
 サムナは外套を羽織りながら尋ねる。ピエシュは椅子に腰かけ、何でもないとでも言いたげに鼻をならした。
「あたしの仕事は知ってるだろ? 荷物も見たはずだ。死体を集めていたら“異形なる者”に見つかって、しくじっただけさ」
「では、なぜこんなことを?」
「質問ばかりだねえ。ちょっとは自分で考えな」
 ぴしゃりと撥ね退けられ、サムナは視線を落として思考を巡らせ、情報を整理しながらぽつりぽつりと答える。
「考えてはみた。自分が理解出来る範囲内でなら。その証になりそうなものがここにあれば納得もいっただろうが、それは見つからなかった。だから、あなたのしていることはおれの理解の外にある」
「証って?」
 ピエシュはいくらか興味をそそられたように問うた。
 サムナは静かに答える。
「信仰だ。だが、少なくとも見える範囲内にそれはなさそうだ」

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