Piece12
ピエシュの声に笑いが混じった。
「あんた、あの子がダルカシュって言った時に驚いたろ。何か聞いたのかい」
「……おれが驚いていたように見えたのか」
「ショックでも受けてるのかと思ったけどね。何も知らないのかね」
「何も聞いていない。話すつもりもないようだったから、聞いていない」
ピエシュは大きく息を吐きながら答える。
「……なら、あたしが言うことでもないね。あんたも知ってるなら、ちょっとはマシな展開を期待したんだが」
棚の扉を閉じ、サムナは背中を向けて座ったままのピエシュに向き直った。
「……それはおれが知るべきことではないということだろうか」
「どうだろうね、あの子がそれを言いたくないなら、あの子にとってはそうだろうけど。でも現実はあの子だけのもんじゃないし、どれだけ目を背けたって消えるもんじゃないさ。誰にとっても平等な現実なんざ気持ち悪いだけだよ。それにどこまで気付けるかってところだろうね、あの子は」
サムナは少し考えた後、話を変えて問うた。
「あの花の加工方法を、あなたはどこで聞いたのか知りたいんだが」
「そのツテでダルカシュの事を探ろうって魂胆だね。無駄だよ」
からからとピエシュは快活に笑った。そして肘を背もたれの上に乗せて答える。
「教えてくれたのはダルカシュの人間だが、とうに死んでる。あたしも花のこと以外は特に興味もなかったしね」
「あまり多くの人間が知る事実ではないようだが」
「花自体の生息域が限られてるからさ。……まあ、これに関しちゃあの子も特に言いたくないわけじゃなさそうだし、あんたはあの子の関係者だしねえ……教えないわけにはいかないようだ」
ピエシュは肩越しにサムナを振り返った。
「花に関してなら教えてやるよ。長くなるからお座り」
花に関してなら、ということは、それ以外に対する追及は受け付けないということか、とサムナは思った。こういう時の交渉術はやはり、ギレイオの方が上手である。
しかし、ギレイオから今以上の情報を引き出すのは無理なようだし、と、サムナは大人しくピエシュの言葉に従った。膨大な情報と照会しつつ話を聞ける自分になら、何か、花の情報からわかることがあるかもしれないと考えたのである。
サムナが腰を落ち着けたのを認め、ピエシュは背もたれに乗せていた肘を下ろした。
「あの花は本当に限られた所でしか育たないのさ。必要なのは綺麗な水とちょっとばかし特殊な養分……まあ察しのとおり、死体がその養分になる」
「……では、そのためにこんなことを?」
「違うよ」
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