Piece12



 そして麻布を敷いただけの急ごしらえの寝床を玄関脇に作り、夕飯の用意などをしている内に陽はすっかり暮れてしまっていた。無論、それにはギレイオが一切手伝わなかった所為もある。
 まだ陽のある内は外で何をするでもなく風景を眺め、暗くなっても家に入る気配のない相方に声をかけて、ようやく戻ってきたところで、やはり何もせずに椅子に座り、ただ黙って床を見つめている。ギレイオに聞こえない所で「まるっきり子供だね」と呟いたピエシュの言い分にはサムナも頷けた。猛省でもしているのか、激しく後悔しているのか、それとも全く別のことを考えているのか、長い付き合いになるサムナにも、今のギレイオが何を考えているのか推し量ることは出来ない。
 否、と、無言の食卓に座してサムナは小さく息を吐いた。それは自分が人間ではないから、機械であるから、人間の心を推し量ることなど不可能なのである。不可能なことを「出来る」と思うのはただの故障だ。
 今も、黙り込んだまま淡々と食事をするギレイオとピエシュの考えていることなど、微塵もわからない。わからないことを「わかりたい」と思うのは一体誰の声なのか、サムナは自分の声が一体どんなものだったかがわからなくなっていった。
「本当にいいのかい?」
 気遣わしげにピエシュが問う。彼女とギレイオの前には粗末ながら食事が並んでいるが、サムナの前にはお茶が置かれているだけだった。本当はそれすらもいらないのだが、さすがにそれでは怪しまれるため、調子が悪いからと適当な理由をつけて食事を断っていたのである。
 サムナは頷いて返した。
「構わない。邪魔になるようなら、やはり外に出るが」
「そっちの方が気になって消化不良を起こすよ」
 暗い闇に覆われた外は、顎を大きく開けた獣の喉を彷彿とさせる。普通の街なら「命が惜しければ夜は街にいろ」という忠告にも納得がいくものの、ここは防壁などの守る物が一切ないただの民家である。荒野にぽつんと佇む民家にいるだけなら、外にいようと中にいようと、こちらを攻撃しようと思う者には関係のないことだろう。
 サムナがそう告げると、ピエシュは表情を変えずに食事を続けながら答えた。
「まあね、確かに何もありゃしないけどさ。ここは安全だよ。あたしに聞くよりは、そこの坊主に聞いた方が早いんじゃないのかい? あたしよりよっぽど理由に詳しいだろうよ」
 サムナはギレイオを見る。黙々と食事をするギレイオの皿は、もう空になろうかというところだった。話も聞いているのかすら怪しいのに答えが出てくるのだろうか、と考えていると、ギレイオは最後に残ったパンをちぎり、皿を見つめながらぽつぽつと話しだした。
「あの花があるからここは安全なんだ」
 何時間ぶりかに聞いたギレイオの声は低く、重いものの、サムナはひどく新鮮な気持ちでそれを捉えていた。

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