Piece11



 血族や見知った人間の弔いをするのは人間の性というものだろう。親愛、失った悲しみを癒す手段、もしくは信仰がそうさせるのだろう、と、サムナはこれまで得た情報からそう判断していた。
 しかし他者を、ギレイオの話によれば全くの見ず知らずの他人の死を悼み、弔う人間がいるというのは理解に苦しむ。彼女と彼らには何の繋がりもないはずで、繋がりがないからこそ、弔う心を生み出すような親愛も悲哀も彼女の中には生まれ出ないものだ。
 では同情か。確かに、荒野で目にする死体は凄惨な有様だった。形を留めているものの方が珍しいくらいで、基本的には損壊の著しいものが多い。つまりは、死体はただの死体として眠ることを許されず、獣あるいは“異形なる者”の腹に収まっている可能性が高いということだった。人であるなら、確かに同情を禁じえない。しかし、同情だけが彼女をここに赴かせたというのなら、それはもはや同情とは呼べない。もっと別の代物だ。
 信仰というものを、サムナはまだ理解出来ていない。ギレイオがそういったものを信じていない所為もあるが、実体のないものに心の拠り所を求めるという行為がサムナにはひどく、意味のないことに見えるのだ。無論、信仰を持つ人間を無意味とは思わないが、彼らにはいつか聞きたい。それは何か、と。
──彼女も。
 彼女をこんな行動に走らせたものも、信仰というものなのだろうか。
 人骨を集め、埋葬し、弔うという行為は、それほど静かな感情が成せるものではないように見えた。
 来た道を戻り、街や村々を避けてひたすらに人気のない方へとギレイオは指示を出す。往路の三分の一ほどを戻った頃には、もう夜明けが近づいていた。
「死体を埋めて墓守なんてやろうってんだから、人目にも“異形なる者”にも見つかりにくい所だと思うんだけどなあ」
 この頃になるとお互いにようやく思考が落ち着く所を見つけ、会話も自然と生まれる。
「森の中や丘の影か……そういうところだろうか」
「空を飛ぶ“異形なる者”がいなくて良かったとしか言えねえな。あとは風向きか」
 呆れ顔でギレイオは言う。サムナはちらりと相方を見返した。
「死体の匂いか」
「鼻のいい奴はいるからな。それでも全方位に向けて匂いが流れないような場所ってのもなかなか……」
「風が当たらない、もしくは死体の匂いを紛らわすような匂いがあるということだろうか」
「匂いねえ……」
 ギレイオは後ろをちらりと振り返る。
 ここに至るまで、なけなしの飲み水を何回か小分けにして含ませると、女はうっすらとだが意識を取り戻した。それでも自分がどういう状況にあるのか、判断するだけの意識を掴むことは難しいようで、基本的にはずっと眠ったままである。途中途中、水を求める動きの強さで覚醒の程度を知るのみだが、声を発するには至らない。

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