Piece11



 反論したい思いもあったが、様子を見に行くことが出来るだけでも良しとしなければならない、とサムナは頷いた。
 それから何となしに会話も消え、走行音のみを背景に走り続けること数分、地面をなめる暗闇に変化が訪れる。
 自然物や無機物とは違った、柔らかな曲線によって生まれた変化は、ライトの届く範囲内に入ると人の形を示した。冒険者と言うには軽装すぎる、旅人風情の恰好をした人間がうつ伏せになって倒れている。年のころは五十か六十といったところだろうか、全体的に体格のいい人物であることは間違いないが、体の柔らかな曲線は間違いなく女性であり、頭に被ったベールから白髪交じりの黒髪が風になびいていた。節くれだち、皺と傷だらけの手には年月だけではない労苦があったことをギレイオは感じ取り、ただの旅人とは少し違う、という印象を受ける。
 女の前方には、彼女の荷物らしき大きな包みがあり、車から降りたギレイオは真っ先にそちらを見分した。そして中身を見て、違和感の正体を知る。
 どこか腑に落ちるものを覚え、ギレイオは女の様子を窺うサムナを振り返った。
「どうだ」
「息はある。大きな怪我をしている様子はないが」
「簡単に死ぬようなタマじゃねえよ、そのおばさん」
「……どういうことだ?」
 これには答えず、ギレイオは包みを持って車に戻り、地図を引っ張り出してサムナを手招きする。
「行先変更。ちょっと寄り道だ」
「寄り道?」
 ヘッドライトの前に二人してしゃがみ込み、地図を見る。
「俺たちがいるのが多分ここ。こっから、少し戻ってこのへんだろうな」
「戻ってどうする」
「その人を送る。多分、そこに家があるはずだ」
 サムナは倒れたままの女を振り返った。
「知り合いなのか?」
「いや? 個人的には知らねえけど、冒険者の間じゃまあ噂が流れるくらいには有名かね」
「噂?」
 ギレイオは足下に置いていた包みを地図の上に置き、その口を開いた。サムナは中を覗き込み、言葉を失った。
「ガイアの近くに墓守がいるって聞いたことがある。旅の途中で死んだ奴から罪人から、とにかくまともに埋葬されなかった奴の墓を作って弔う酔狂がいるって聞いた時はアホかと思ったけどな。……実際に前にしてみると、妙に納得するもんだ」
 袋の中には無数の人骨が入っており、肉体を失って久しい頭蓋骨が昏い眼窩をこちら側に向け、何か言いたげにかたん、と音を立てた。



 女を車の後部座席に寝かせ、時折様子を窺いながら来た道を戻る。あの包みはギレイオが膝に抱え、何を言うでもなく、流れる風景に視線を投げていた。もっとも、見えるのは暗闇ばかりで風景など影としてしか認識出来ないのだが。
 ハンドルを握るサムナも後ろで寝ている女を気遣って、これまでより安全運転を心がけているから言葉を発さない、という風にしてはいたが、実際のところは持ち出すべき言葉が見つからないでいた。

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