Piece11



 成長したが故に広がる好奇心の幅が、ギレイオ自身に及ぼうとしている。否、もうサムナは知ろうとしているのかもしれない。
 それは、ギレイオがもっとも避けたかった状況だった。
 知らなくていい、知られればギレイオはきっと、ここにいることが耐えられなくなる。
 せめて自分が死ぬまでは、知らなくていいと思っていた。だから、それが破られた時のことを、ギレイオは考えないようにしていた。だが、現実はギレイオの思う方向とは違う方へと進もうとしている。多分それは、ギレイオには動かすことの出来ない現実であると、ギレイオ自身はどこかで感じ取っていた。
──なら、自分はどうすればいい。
「……ギレイオ」
 静かに名を呼ばれ、ギレイオは頬杖をついていた手から顔を上げた。
「何だよ」
「人が倒れている」
「どこに」
「前に」
 前、と示された方は車のライトも届かない。サムナが言うにはあと数分走行すれば着くというが、人間の目で視認出来る範囲の話ではなさそうなので、ギレイオは自分の目で確認することを諦めた。
「死体じゃねえのか」
「生きている。ほとんど虫の息だが」
「冒険者か?」
「どうだろう……民間人がこんな所にいるというのも理解に苦しむが」
「襲われて逃げ出したところで力尽きたか、何なんだか、ってところだろ。男、女どっち」
「……女性」
 ギレイオは嘆息して再び頬杖をついた。
「なら近くの街までもたねえよ。こっちには医療用の道具もないし、介抱も出来ねえ。嫌な思いする前に避けた方が無難だ」
 サムナはちらりと相方を見た。
「……だが、様子を見るぐらいはいいんじゃないのか」
「もうすぐ死ぬだろうって相手を見に行くのか?」
「死なないかもしれないだろう」
「死ぬかもしれねえって話だよ。お前、ここまで死体を見なかったわけじゃねえだろうが」
「助かる可能性をこちらが放棄する道理もない。違うか?」
「無理を通すってか?」
 サムナは黙って肯定を示した。
 ギレイオは息を吐く。随分と相方は強情になり、そして自分は寛容になったものだ。
「勝手にしろ。でもな、助けられなさそうだと思ったら放って行く。それでいいな」

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