Piece11



 剣にまとわりついた血を一振りして払い、サムナは相方を振り返る。
「そんなに楽なのか」
「前ほど気にしなくていいのは助かるな。えっらい強く押さえ込まれてるのはわかるけど、自由に動けるってのはやっぱいいもんだ」
「体に負担は?」
「慣れた。前もこんなもんだったし、もう大丈夫だろ。お前は? それいいか?」
 それ、とサムナが鞘におさめた長剣を示す。道中の街で適当に見繕って買った物だった。
「少し重いな。だが、前よりも剣を吹き飛ばす心配がなくなったから、こちらの方がいい」
「なに、前のって軽かったのかよ」
「初めは重かったが、使い込むうちに慣れたということなんだろう」
「……じゃあ、それもそのうち軽く感じるようになるってことじゃねえか」
「……まあ、そういうことになるな」
 将来的な出費を予期させるような内容になり、うんざりしたところでギレイオは息を吐いた。
「少しは丁寧に扱えよー。出費は本気で痛いんだからなあ」
 剣を鞘に納めながら、サムナは頷く。
「心がけるから、お前も出来るだけ荒事は避けてくれ」
「お前に言われたくねーよ……」
 一番の荒事の中心人物に忠告を受けても嬉しくはなかった。
 夜闇の中に蹲るようにして待っている車の元へ戻り、再び移動の旅へと戻る。昼夜逆転の生活となってからは、運転は主にサムナの仕事となっていた。人の目よりもサムナの目の方が夜目がきく。舗装のされていない道とも言えない道では、ありとあらゆるものが障害となって横たわっていることが多かった。
 石に岩、倒木、コブなどの自然物から、道中で襲われたらしい車の残骸、果ては冒険者なのか旅人なのか、人の遺体や先刻のように倒した“異形なる者”の死体までもが転がっている。何であれぶつかればただでは済まないし、死体に関しては良い気持ちはしないのは当たり前の話だ。
 誰かが埋葬してくれればいいが、こんな所でそんな真似をする人間こそ、自らの墓穴を用意して赴かねばならなくなる。
 夜の移動は距離感が掴めない。空も地面も似たような色で塗りつぶされ、月と星でどうにか空との境界線を保っている。昼間は主張の激しい自然物も夜はただ息を潜め、静かに蹲るだけの存在となり果てるため、夜間の走行は死の谷をただ歩むような空気に包まれていた。
 車のエンジン音、地面を走行する音、たまに二人で交わす会話──時折、遠くに小さな街の明かりが防壁から漏れているのが見えると、心底ほっとする。ここでは誰が隣にいようとも、ただただ暗い夜が孤独を押し付けてくるのだった。
 一度はそれに潰れ、もういいと投げ出したギレイオですらも、そういう時は気持ちが塞ぐ。そんな時、“異形なる者”の襲撃はむしろありがたいとすら思っていたが、サムナには言えない。
──サムナは成長している。
 精神的にも人間的にも、ここしばらくで驚くほど情報を吸収し、それを糧に成長を遂げている。そしてその成長をギレイオは喜ぶことが出来なかった。

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