Piece11



「今はガイアに向かっている。俺たちもすぐに向かう。お前のお気に入りはぴんぴんしているそうだよ」
 ドゥレイの言葉など頭を通り過ぎている。命令を叩き込んだ後はただ、純粋な戦闘を望む気持ちばかりで口元に笑みが浮かぶのを抑えられなかった。
──あいつだけは違う。
 ギレイオと対峙した時の高揚感は混じりけのないものだった。それは迷う必要のない、天気を待って引き上げる必要もない竿の向こうにあった。ギレイオと対峙すれば、反射的にそれを取ることが出来る。そのことが、エインスには喜ばしい。
「サムナは勝手にしろ。オレがあいつの相手をしてやる」
「……好きにすればいい」
 ドゥレイはそう言うと立ち上がった。ギレイオとの戦闘に気分が高揚していたエインスは、ふと思い立ち、立ち去る背中に声をかける。
「お前、なんでさっき脳みそがどうのなんて話したんだよ」
 振り返ったドゥレイは表情一つ変えることなく、答えた。
「俺の脳には価値がないからだ」
 それだけを言うと、ドゥレイは淀みのない動きで再び歩き始めた。
 その言葉と顔が、湧き上がっていた高揚感を瞬時に冷えさせる。こういう時はどんな竿を選べばいいのか、エインスはわかっていた。
 だが、エインスはまだ、海に何が潜んでいるのかを知らない。




 大きく迂回をして走行すること数日、時折、頭上を悠々と飛んでいく飛空艇に恨めしい視線を投げかけつつ、車はひた走る。人目を気にしつつの旅路だが、行動する時間帯を常人とずらせば、意外と楽にその網をかいくぐれるものだった。つまり、夜に移動をし、昼に休息を取るのである。
 木一本見かけない荒野ならそれも難しかっただろうが、迂回よろしく南から回るルートを選択したおかげか、道中、ぽつぽつと小さな雑木林を見かけることがあった。その中で昼は休息を取れば、人目も、更には“異形なる者”に見つかることも少ない。木はありとあらゆる目から二人を守ってくれ、昼間の刺すような日差しからも守ってくれる。
 無論、夜は移動に費やした。人目を気にしなくていいものの、“異形なる者”からの急襲はやはり昼間に比べて多い。餌となる動物が少ないからなのか、確かに一番の食糧になり得る人間は彼らの襲撃を恐れて、昼はまだしも夜となれば街を出ることはほとんどない。腕の立つ冒険者でも、わざわざ戦いに出ていく酔狂はしないものだ。
 そのために、夜動くものはやはり目立つ。だが、昼間動くリスクと天秤にかけても、攻撃したところでさっぱり心の痛まない相手の方がやりやすく、しばらくそういった荒事から離れていた二人にしてみれば、いい肩ならしにもなった。小さな戦闘を繰り返しながら、勘を取り戻していく作業は苦にならない。ギレイオもサムナも、今までとは違う得物を手にしているのだから、必要といえば必要な作業である。
「……あー調子いい。これ楽だ」
 肩をぶんぶんと振り回して、ギレイオはご機嫌に言う。その足下には今しがた倒したオークが白目をむいて絶命していた。

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