Piece11



 ディレゴの言をまるで相手にしないエインスに対し、ドゥレイはその言葉を飲み込むかのように身を乗り出した。
「それは自分が機械でいたいか、人間でありたいかということ?」
 その問いに、ディレゴは表情を硬くした。
 ネウンは何でもないような顔で、エインスは少しばかりの興味を覗かせてディレゴの様子を窺う。デイディウスは相変わらず一人で茶会を楽しんでいたが、既に手元の茶菓子はなくなっていた。少しばかり残ったお茶を飲み、静かにティーカップを置く音が沈黙を埋める。
「……それを決めるのはお前たちではない。我々の方だ」
 しゃがれ声がその小さな体から発せられると、ディレゴは途端に肩を強張らせ、硬くした表情に微かな苦みを滲ませた。だが、それも一瞬の出来事で、すぐさま表情を元に戻すとデイディウスの方を向き、「その通りです」と応える。
 ディレゴの顔を瞬間的に過った表情が「反抗」であると、今のエインスにはわかりすぎるほどにわかった。



 その邸宅は常に花の中に埋もれている。四季折々の花々が季節を無視して一斉に咲く姿はどこか異様で、悪趣味な絵を見ているようでもあった。華やかに咲き誇る花々は自らの美を主張してやまず、重なり合う花の色合いにも香りにも、一切の遠慮というものがない。まるで人間のようだ、と思いつつ、デイディウスは邸宅への道を進みがてら、時折、花をむしって捨てていった。むせるような花の匂いは血肉の匂いにも通じるものがあると、デイディウスは思う。
 滑らかな動きで段差のある石畳の道を辿り、バラのアーチをくぐり、自らの後ろにむしり取った花々の亡骸を作り出しながら、老人を乗せた車椅子はしずしずと進む。
 玄関前のエントランスに来たところで車椅子は止まり、三つの輪が三角形に組み合わさった独特の車輪で難なく上る。通常はその内の二輪が地面に対して平行に並び、走行していたが、これは大分前の技術だった。今はもっと要領よく上る車椅子もあるが、デイディウスは今の車椅子を変えるつもりは全くない。
 故障すれば直し、そのための部品がなければ作ってまで修理する。車椅子に対するそれは愛情などといった優しい感情から来るものではなく、執着、あるいは憎悪にも似た感情がデイディウスにそうさせるのだった。
 離れてなるものか、とデイディウスは思う。これと切り離されることは即ち、過去とも切り離されることだからだ。
 それは、今のデイディウスの全てを否定することになる。そうなった時、彼は自分が自己を保てるとは思っていなかった。自身の心に対してはおそろしく客観的に、そして冷酷なまでに現実に即した判断を持てると自負しているだけあって、それは間違ってはいないだろう。だからこそ、デイディウスは車椅子にしがみついてでも、これを離さないと決めていた。

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