Piece11
驚いているのか、喜んでいるのか、ディレゴ自身も自らの感情に戸惑っていたようで、それは今も変わらないようである。創造主の内心がどんなものであるか、ドゥレイにはその輪郭すらも掴めない。だから興味もわかず、特にその点に言及するでもなく、ドゥレイは思ったことを口にした。
「動力源が半減していることと関連は?」
ディレゴは表情を消し、顔をドゥレイに向ける。
「あるだろう。だが、それ以外の要因で、サムナは能力の回復を大幅に遅らせているようだ」
じっと聞いていたエインスは思い当たることがあり、口元に笑みを浮かべた。
「……あのガキだろ」
六つの瞳がエインスを見据える。デイディウスは相変わらず、この会議に参加しようとはしなかった。
それでも構わず、エインスはテーブルの天板の端を足蹴にしつつ、行儀悪く椅子を揺らし始めた。
「どうも気に食わねえと思ったんだ。サムナはいちいち、あのガキのことを気にしやがる。攻撃するのにも防御するのにも、逃げるのにもあいつが関わる。邪魔くせえったらなかったけどな」
「その割には随分と遊んでいたじゃないか」
「じゃれてやったんだよ」
「それで手を噛まれていたら世話ないな」
「ああ?」
剣呑な空気になる二人をネウンは素早くたしなめ、一応は引き下がったエインスへ声をかけた。
「彼がサムナの回復を阻害していると言いたいのか」
「違うってのか? オレらのは人間の猿真似だぜ。一番身近な奴があいつじゃ、サムナだって真似のしようもねえよ。したくたってあいつはそれを邪魔するだろうしな」
「拳を交えたからわかるとでも?」
ドゥレイが言うと、エインスは鼻で笑って一蹴する。
「なんだその理屈。それで済むなら世界中の人間殴りまわってやるよ」
「そうしてくれるとありがたい。わざわざ学習する手間が省ける」
「言ってろ、馬鹿野郎。……あいつはサムナを相方よろしく連れ歩いちゃいるが、実際は少しも相手にしてねえのさ。下僕と思って連れ歩くよりもタチが悪ぃ。あいつにとっちゃサムナは機械なんだよ。どこまでいっても、サムナは機械でなくちゃならねえって思い込んでやがる」
エインスは顔に嘲るような笑みを浮かべた。
「気味悪いったらありゃしねえ。しかも自分でそれと気づいてねえんだから重症だ。おまけにサムナもそれに気づいてねえときたもんだ。二人そろって間抜けだよ。学習のしようがねえだろ」
これには頷くところがあるようで、ドゥレイもネウンもそれ以上言い募ることはしなかった。黙して話の流れを窺うような様子がある。
一方、ディレゴはエインスの考察力にも驚いていたが、その表情の豊かさにも驚きを隠せないでいた。
エインスは三人の中で一番新しく、その機能もこれまでの技術の粋を集めたものとなっている。だから、ある程度の進歩は見込んでいたし、ドゥレイにエインスの動作状況を逐一報告するように言っていたため、エインスの進歩の状態は掴んでいるつもりだった。
ところが、目の前でくるくると表情を変えるエインスの姿はまるで人間そのものである。生々しい現実となって展開されるエインスの進歩は、データで確認するよりもはるかに多くの衝撃をディレゴに与えていた。これでは乾いたスポンジが水を吸うどころの話ではない。エインスは着実に人間を人間たらしめる「何か」を得ようとしている。
それが何なのかわからないことが、ディレゴはもどかしかった。
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