Piece11



「……目的が散乱していて、よくわからない」
「女が一番、研究はほとんど二の次。ロマも知らねえだろうけど」
「それをどうしてお前が?」
「あいつの弱み探るのに机あさってたら女の置手紙ってやつを見つけて、殺されるんじゃねえかってくらい怒られたけど、知られたからには、ってついでに教わった」
「……親切だな」
 ギレイオは信じられない、と言う風にサムナを見た。
「あれが!? 違う違う。周りにもれたら確実に俺を疑うから、覚悟しとけってやつだよ」
「肝に銘じておけ、という忠告だろう」
「ばらす時は自分の墓穴用意しとけって、脅迫の間違いじゃねえの。……お前、本当にあいつらには好意的だなあ」
 ギレイオにそう言われ、サムナはちらりと相方を見やった。
「……そうだろうか」
「そうだろ」
 ギレイオは居住まいを正し、窓に頬杖をつく。頬を打つ風は乾き、口を開けていれば砂が飛び込む。簡素な襟巻を口元まで引き上げて、素早く続けた。
「まあ、ある意味お前のことを理解出来る連中だもんな。じじいやヤンケもそうか」
「自分でも理解出来ていないことで、他人に理解を求めることは出来ない。あれは議論であって理解じゃない。理解されていない、と言って自らを卑下するつもりもないが」
 ギレイオは面白くなさそうにサムナを見る。
「……お前、最近理屈っぽくなったな」
 サムナはアクセルを踏み込んだ。ぐん、と体がシートに押し付けられる。
「お前が言わない代わりに、そうなったんだ」
 これに、ギレイオは答えることはしなかった。



 作戦会議の場としては、この場はいつも不適切ではないかとエインスは思う。
 白々と差し込む陽光に、それを反射して輝く石造りの床には独特の模様が織り込まれた絨毯が敷かれ、その上には長いテーブルが椅子を従えて横たわる。重厚な造りではないが、細かな細工が成されたテーブル類を始め、この空間に鎮座する家具はどれも似たようなものばかりだった。
 色の明るい木を使い、華美な装飾はなく、ただただ息を潜めてじっとそこに佇む。
 一種の緊張のようなものを家具たちはまとい、それがこの部屋の空気を作り出しているわけだが、どう見てもここは食堂だった。
 エインスが感じる緊張は徹底された清潔感であり、確かに、ここの空気は屋敷のどの場所の空気よりも綺麗だと感じる。綺麗すぎるほどだった。食のための場は綺麗にすべきであると、かの老人が言ったからだというが、エインスたちには関係のない話だ。現に、列席するディレゴと同じお茶と茶菓子が、エインスたちの目の前にも用意されているが、そもそも食事を必要とする体ではないことは、ディレゴが一番よくわかっている。
 なのに、それをして否と唱えることの出来ないほど、絶対的な力をあの老人は持っているのだろう。
 ディレゴから一席離れて隣に座る小柄な老人こそ、彼らの主であり、『楽園機構』の創始者であるデイディウス=バトラーその人であった。

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