Piece10



 一方で、「機械であるはずなのに」という意識は、事実というよりも思い込みに近い。それもやはり共通した認識で、サムナもその例に漏れず含まれる。
 ワイズマンは思考を回転させた。「機械であるはずなのに」という言葉が指す機械的な部分は、サムナの体のみに言えることである。その他に関して機械的と思える部分をワイズマンやロマは知らない。おそらくは、機械部分をいじっただけのゴラティアスも知らないだろう。
 それなら、ギレイオはどうだろうか。あの人間嫌いがサムナとつるむのは道理のような気もするが、サムナには人間的な部分も垣間見える。それをギレイオが「機械であるはずなのに」という思い込みで蓋をし、その思い込みがサムナにも影響を与えているのだとしたら。
 ワイズマンは微かに眉をひそめた。
 ギレイオは一体、「なに」と旅をしているつもりなのだろうか。



 森は思ったより深くはなく、頭上から降り注ぐ木漏れ日は多くの光を足下に与えてくれる。周壁側よりも学校側の方が、森の手入れはされているようだった。歩く分には障りがない程度に下生えの草は刈り取られ、おかげでサムナの長身を上手く隠すような茂みも少ない。これでは本当に学校には近づかない方がいいな、とサムナは足の向く方向を変えた。人目についたところでサムナには適当な言い訳が思いつかない。どこを歩いているのかわからない相方は、そういう時におそろしく舌が回ったことを思い出す。
 サムナは特に目的があって外に出たわけではない。出来ることなら街へ出たかったが、それも今の状態では叶わないとなれば、サムナに出来ることは本当に限られている。
 ギレイオにならって訓練するのもいいが、そもそも自らを鍛え上げて獲得した戦闘技術ではないので、訓練そのものが果たして意味があるのかとなると疑問である。ワイズマンやロマの資料を読むことを彼らは止めはしなかったが、一度読んでしまえば中身は自動的に記録され、情報として引き出すものに新しい魅力は感じなかった。
 食事も意味はない。娯楽などここで求めようもないし、あったところでサムナにとってはただの現象でしかない。そこにあるのものをただ眺めるだけ、それなら眠っているのと同じことである。
 そこまで考えて、サムナは本当に自分には何もないのだという結論に至った──否、ギレイオがいなければ。
 手は焼くが、ギレイオが見せるものはどれも新しい。同じ風景、同じ人、同じ街でも、ギレイオが関わればそれは新たな面を見せる。大抵はややこしい面が多いのだが、暗い部分も共に見せられれば、物の輪郭もわかるというものだ。
──そうだ、わかる。
 ギレイオが言おうとしない過去が暗い部分であるのなら、それがわかって初めて「ギレイオ」という人間の輪郭がやっとわかる

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