Piece10



「さて。どうですか」
 息を吐きながら、確証を得ない様子で答えた。
「感情があれば魂があるというのなら、機械に感情の真似事でもプログラムしておけば、それだけで魂の完成です。ですが、我々の中にあるというそれは、そんなに簡単なものではないでしょう。だから我々はまだ、自らの魂の在り処さえ見いだせずにいる」
 ワイズマンの目が不意に遠くを見つめるような目になった。
「感情が魂の派生物であるなら、逆に、魂とはなんであるかという疑問も生まれます。これはロマ君の最初の疑問に戻ってしまうのですが。……僕は、魂は織物のようなものだと思っています。自らが生み出した感情と、流れ込む膨大な記憶と経験、あとはまあ、僕にもよくわからない糸が組み合わさって出来上がった織物というようなね」
 最後の方ではワイズマンは苦笑を浮かべて言った。自分でも、おかしな事を言っている自覚があるのだろう。立証不可能なものに対して持論を述べるのは、子供の頃の妄想を呟いているようで気恥ずかしいものがある。
 だが、ワイズマンの中には魂とはそういうものだろう、というぼんやりとした印象があった。自分の中に光源なり織物なりがあるというのは大分想像し難いものがあるが、ではどういうものなのか、と説明を求められた時に、一番しっくりくるイメージがそれなのである。どこかで見た織物の記憶が強く影響しているのだと思い、それもまた魂へと還元されていくのかと思うとおかしさがこみあげてくる。
 傍目にも困惑しているとわかるワイズマンを見て、ロマは腕組みを解いた。
「先生にもわかりませんか。光源だったり織物だったりと、魂は色々と忙しいですね」
「だから個性が生まれるんですよ。サムナ君と話していると、どうも調子が狂うのはそれですね。宿るはずがないものが宿ろうとしているようですから、その場に立ち会うというのはやはり人間からすれば居心地が悪い」
 サムナと話していると、人間と話しているような気分になる。そしてふとした瞬間に思い出し、妙な据わりの悪さを覚えるのだ。
 機械であるはずなのに、という先入観がその壁を作り出しているのだろうが、それはどうやらサムナ自身も同じようである、と思ったのは先日の出来事である。ロマと話していてサムナが反論を繰り出そうとしているのを聞き、ワイズマンはおやと思ったのだ。サムナの声には明らかな苛立ちが見て取れた。だが、サムナには当然わかるはずもないし、サムナにそんなものがあるはずがないと思っていたロマにもそれはわからなかったようだ。関係のない第三者の立場で聞けば、それは明らかな苛立ちであった。
 己にそんなものがあるはずがないのに、ないと知っている人間が、さもあるかのように言うのが許せなかったのか──ないのなら、ないままでいたかったのか。気づかせてほしくなかったとでも言うかのような苛立ちが、サムナの声には混じっていたのである。
 先入観、とワイズマンは心の中で呟いた。
 それは時に大きな暗示となって心に蓋をする。
 サムナの構造は確かに機械だ。生体を使っている部分もあるというだけで人間と称するには程遠く、人間を造ろうとする意志はあるが、人間ではない。それは確固たる事実として、サムナの正体を知る人間が共通して持つ認識である。そこに間違いはないし、サムナもそれを知っている。

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