Piece10



「……森を出なければいいんだな」
「お前は背がでかいから、この家が見える範囲までが安全圏だな」
「わかった。少し外を歩いてくる」
 そう言って、サムナは外へ出て行った。
 静かに閉まる扉を見つめ、サムナの足音が段々と遠ざかるのを聞き、やがて聞こえなくなってから、ロマだけでなくワイズマンまでもが詰めていた息を吐いた。知らぬ間に師弟そろって緊張していたようで、その理由に思い至って二人して苦笑いを浮かべる。
「……どうも、調子が狂いますね」
「先生もですか」
 心臓に毛が生えていそうなのに、という言葉を飲み込んで言うが、ワイズマンもその真意を知ってか知らずか、ロマの皮肉に応じることはしなかった。我が道を嵐のごとく強引に突き進むワイズマンも、本当に緊張するということがあるらしい。
 だが、それもそうだろう、とロマは机から体を離して思った。
「あれで機械だと言うんだから、奇跡としか言いようがありません。彼の思考や発想はまるで人間です。怒りもするし困惑もする。迷いも反抗も……」
 そこまで続けて、ロマは先日のやり取りを思い出して微笑した。
「……それこそ、僻みも妬みも彼は知らずに行おうとしています。そうした自分に驚いて、そうさせたオレに怒ったみたいでしたね。こないだは」
「頭脳の解析が出来なかったことが悔やまれますね。これほどのものなら、ギレイオ君を気絶させてでも行うべきでした」
 ロマはひきつった笑みを浮かべる。
「……オレまで巻き込まないでくださいよ」
「まあ、そのへんはギレイオ君の采配にお任せしますが」
 ワイズマンはロマを一瞥してから、自身がまとめていた資料を眺めた。
「サムナ君には明らかに、人間を造ろうとした意志があります。体の構造も、頭脳も。ないのは消化器と生殖器ぐらいでしょう。後は完璧な魂さえ備われば、一人前の人間の出来上がりです」
 魂、と呟いてロマは中空を眺めやる。
「感情みたいなものが、それにあたるんでしょうかね。オレにはその区別がつきませんけど」
 ワイズマンは少し考える素振りを見せてから、持っていた資料を机の上に戻す。
「例えば、魂が強力な光源のようなものだとして、それに膜を被せたものが心、そこから発せられる光が感情だと僕は考えます。感情は魂から溢れる物の、ほんの一部でしかありません。……しかし、一部があるのなら、その根源となる物もあるはずだとは思いませんか」
 ロマは腕組みをした。
「彼にそれがあるというわけですか」

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