Piece10



 ギレイオの方はというと、サムナより後に施術したという時間差もあるだろうが、生身の体に魔晶石を埋め込み、更に他人の魔法によって自身の魔法を強烈に押さえ込むという荒業を成しているために、その回復は緩やかなものだった。以前よりも覚醒していられる時間は増え、一日の睡眠時間も通常に戻りつつあったが、それでも時折、ぼうっとしているような時がある。継続的に緊張を保つことが出来ないようで、これでは出発して早々“異形なる者”たちの餌食になってしまう。心身は慣れてきているようだから、強制的に体や頭を叩き起こす必要があると言って、ギレイオは一人で走り込みに出たり、訓練を始めたりしているようだった。
「……必死だなあ」
 そうして今日も出ていくギレイオを見送り、ロマがぼんやりと呟く。
「ここにいても邪魔なだけですよ」
 ワイズマンの返す言葉が辛辣なのは相変わらずである。邪魔と言われればギレイオが怒りそうなものだが、確かに、ここにいたところでギレイオやサムナに出来ることはない。せいぜい、その辺にあるものをまとめるぐらいで、患者としての用向きが終われば立ち去った方がいいのだろう。しかし、今のギレイオを連れて歩くのは危険であるとサムナは思う。
 一方で、少々、時間を食いすぎているのも事実だった。
 今のところ何ら音沙汰がないのが不思議なくらいだが、サムナにかけられた重討伐指定は現在も生きている。ここに来るまで、ギレイオが人の少ない町や村を辿って行ったことがここで功を奏しているようだが、それも時間の問題だろう。グランドヒルへ着いた途端、食い逃げと間違われたくらいには、第一印象が与えるものはそう良くはないらしい、とサムナは学んでいた。
 ここに潜んでいる以上、人の目に晒されることはないものの、外で何が起こっているのかわからない、というのは難があるように思える。自分が動ければいいのだが、とサムナは思うが、そこで考えは原点に立ち戻る。サムナこそ、表だって歩けない顔なのだ。
「二人はずっとここにいるのか?」
 サムナが疑問を発すると、ロマが顔をあげた。
「先生はな。外仕事は全部オレだ」
「僕には大事な仕事があるので」
「では、外の情報はロマが?」
 ロマはサムナの質問の意図するところが、ぴんときたようだった。
「外に出たいのか?」
「……そろそろ、その必要があると思う」
「出たところで何もないぞ。ここは学問が集中する街で、あとは鉱石夫ぐらいしかいない。流れる噂も田舎町独特の暢気なものだ。……何を心配しているのか知らないが」
 サムナは一瞬、自分の置かれている状況について教えようかと思ったが、やめた。彼らにしてみれば、無用な厄介事である。関わる必要のないものに巻き込むのは、こちらの身勝手というものだ。ギレイオがゴルやヤンケを関わらせまいとしたのは、こういうことか、とサムナは得心がいった。

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