Piece10



 しかし、ギレイオが関わってくれば、その言葉にはまた別の意味が付与される。一瞬、というのは、ギレイオの魔法そのものだからだ。
 過ぎし日に思いを馳せる間も与えず、生への執着も、生き物としての形も、そして本来なら迎えられたであろう穏やかな死すらも「一瞬で」奪い取るのが、ギレイオの魔法である。
「……さあ、どうですか」
 ワイズマンの声はあくまで涼やかだ。
「それが本当である証拠はありませんし、事実だったところで僕たちがすべき事は何もありません。ただし、可能性としては高い。それだけのことで、彼に同情してやる義理もありませんし、ギレイオ君はそんな人間をことごとく軽蔑するでしょうね。……ま、だからどうしたというのもありますが」
 言うなり、ワイズマンはポケットに手を突っ込んだ。
 暗に、この話を終わらせようとしているのだとわかった。
「軽蔑も後悔も勝手に一人で盛り上がっていればいいんですよ。それで自分の心を慰められるなら安いものです。……ですが」
 ワイズマンはサムナを見据えた。
「その時期が終わってしまった人間は、哀れとしか言いようがない。……僕はね、ギレイオ君にはそうであってほしくはないんですよ。無様で馬鹿げた生き方をしていても、哀れであるのは許せない。僕らの研究の成果を、哀れな物にしてほしくないですからね」


 ギレイオはそれからというもの、寝たり起きたりを繰り返すような日を送った。気ばかりが急いて体が追い付かず、一度は森で倒れているところを見つかり、ワイズマンに絶対零度の暴言を浴びせられたこともある。いつものギレイオならそれに猛反論するところだが、うるさそうにあしらっただけで、特に反応も見せなかったあたり、本当に体力も気力も消耗しているのだとサムナは知った。
 ワイズマンが言うには、寝ていれば元に戻るとのことだが、これでは説明にならない。考えたところで原因に思い当たるところのないサムナには答えの出しようもなく、時間は充分にあるのだからと、ロマに尋ねているうちに、自然と話す時間が多くなった。
「ギレイオの体は長い間かけて魔石に馴染んでいったから、魔晶石を受け入れるには時間がかかるんだろう。その分、オレたちの魔法も強く効くようになっているはずだから」
 始終、高熱が出ているような状態だ、とロマはギレイオの体調について端的に述べた。自分の内部に照らし合わせて考えることはサムナには出来ないが、あのギレイオが森を横断することさえまともに出来ないとなれば、それは一大事である。サムナの知る相方は、体調が悪ければその原因とされる病気や天気に文句を言い、怪我を負えば加害者に向けてありったけの暴言を吐く。理不尽極まりないと思ってはいたが、それも聞こえないというのは初めてだった。


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