Piece10



 本音を包み隠さないワイズマンの言い方は、余計な物がなくて聞き取りやすい。人間というよりも、どこか機械めいた話し方をする男だとサムナは思った。
 そんな内心を知るよしもなく、ワイズマンは淡々と続ける。
「しかし、あれだけの怪我となれば、ロマ君の言う通り、数日ももたないでしょう。子供の体力なら尚更でしょうし。ギレイオ君の魔法の件があったとしても、わざわざここへ来るのなら、どこかで治療をしてから、という選択肢はあったはずです」
「近かった、ということですか」
「大方、そんなところでしょう」
 息を吐きながら、ワイズマンは腕組みをした。
「ちょうどいい所に僕たちがいた。だから普通の医者に診せるよりも、手っ取り早いこちらを選んだというところだと思います。……当時、ゴラティアスはここからは離れた所にいたようですしね。もぐりと言えど、それなりの知名度はありましたし、ここを選ぶよりもいい医者を知っていたはずです。それでもここに来たのは、単に地理的な問題からだったと思いますよ」
 そう言いながら、ワイズマンは雑多に物が置かれた机の引き出しを探り、小さく畳まれた紙を取り出す。それを丁寧に開くと、畳まれた時の十倍以上の大きさの地図となって三人の目に晒された。随分長い間畳まれていた状態だったのか、折り目が白く浮き上がってはいるものの、見る分には問題のない、タイタニア全土の大陸地図である。
「グランドヒルはここ。周辺には小さな集落が点在しています。しかもタイタニアよりこちらを選ぶほどには、こっちに近く、大多数の人間の目に触れにくい集落」
「……隊商や冒険者たちが寄るような場所にはないということですかね。オレもここに来て長いですが、ダルカシュなんて名前は初めて聞きますから」
「僕もです。ある程度の防衛が出来、自給自足の生活が出来るような場所にあったんだと思いますが」
「そうすると、自然の防壁のような物に囲まれていたということか」
 話の筋が見え、サムナも会話に参加する。
「岩山の上も抜群ですが、そこまで突飛な場所にあれば、噂ぐらいは流れてきますよ。……それもないとなると、よっぽど小さかったか……」
 三人で地図を見つめていると、ロマがぽつりと呟いた。
「……移牧民?」
 サムナはロマを振り返った。
「移牧?」
「夏と冬で住む場所を変える民族のことだ。確か、まだいましたよね?」
 ロマはワイズマンに答えを仰ぐ。ぽつりと浮かんできた言葉なだけに、確かな裏付けがなければ、ただの妄想で終わる。これを答えにしたいと思ったわけではないが、これが答えに近いという思いはあった。それに師が応じてくれれば言うことはない。

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