Piece10



「様子はどうです」
「目の調子はいいようです。ちゃんと見えるようですし。ですが、どうも様子がおかしいですね」
「まあ、施術中に寝言を言うくらいですからね。様子がおかしいのはいつものことですが」
 寝言、とサムナは問う。
 目覚めたのは昨日の夜、それから大した説明もないままギレイオの治療が始まり、施術中は勿論、部屋の中に入ることは許されなかった。
 問うたサムナにワイズマンが答える。
「本来、夢など見れる状態ではないと思うんですがね。しかし、あれは寝言のようですし。ダルカシュという言葉に心当たりは?」
 サムナははっとし、そして俯いた。
 余計なことは話すな、とギレイオに釘をさされたものの、サムナにはこれが「余計なこと」なのかどうかが判断出来ない。知りたいと思う欲求ばかりが先走り、自らを制する言葉には蓋をして、サムナは自分に理由をこじつける。知らなければいけないのだ、と。
 サムナは俯かせた顔を上げた。
「……ギレイオの故郷だと聞いた」
 その言葉を吟味するように聞いてから、なるほど、とワイズマンは頷いた。
「故郷が恋しくて名を呼ぶほど繊細な子でもないですしねえ」
 その場の空気に反して、ワイズマンの言葉には遠慮がない。その辛辣さが、ギレイオの過去を掘り下げようという好奇心へのハードルを下げ、三者に「話してみようか」という雰囲気が流れ始める。戦闘中とは違う、意志を肌で感じるというのはこういうことか、とサムナは少し新鮮な気持ちでそれを受け止めた。誰もが口には出さなかったが、興味を惹かれてはいたようだった。
 ロマが口を開く。
「ゴラティアスと一緒に来た時は、もう彼の所に身を寄せている風でしたよね」
「あの変わり者が父親でもおかしくはないですが、結婚する相手がいたのかどうかとなると激しく疑問です。僕は彼はただの保護者だと思いますよ」
 サムナは頷いた。
「それはギレイオもそう言っている。だから間違いはない」
「なら保護者だとして、どこでギレイオ君を保護したのかということになりますね」
「目はどうですか。あれだけの重傷を負って数日間はもたないでしょう」
 重傷、とサムナは繰り返して問う。ロマはサムナの方を向いて応えた。
「ギレイオは元々、両目あったらしくてな。それが、ここに来た時は左目に大怪我負って、目がすっぽりなくなってたんだよ。向こうは“異形なる者”に襲われたと言い張っていたんだが」
「まあ、襲われたと言われればそうだろうと思う状態でしたし、当時はそれ以外の要因は考えられませんでしたしね。そもそもゴラティアスに借りを作れたことで、基本的にどうでもよかったと言えば、そうなんですが」

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