Piece10



「……施術中に涙を流すとは、器用なことをするもんですね」
 ワイズマンはギレイオの視界から消え、ロマに片づけを頼むとその場から立ち去る足音がした。
 ギレイオは右目の目尻から、冷たいものが流れ落ちるのを感じた。
「麻酔効果で夢でも見たのか」
 そう言いながら、今度はロマがギレイオの視界に入る。手に持ったガーゼで涙を拭こうとするのを、ギレイオは重たい手で払いのけた。
「いい。……サムナは」
 払いのけた手は力なく、診察台の上に戻る。起き抜けでよくここまで動けたと思った。
 それはロマも同じらしく、溜め息交じりに答える。
「お前の根性の強さは筋金入りだな。目よりまず相棒か」
「目は見える。いい腕してるよ」
 ゆっくりとだが瞬きを繰り返す。左目は淀みなく目としての機能を果たし、心なしか以前よりも視力が上がったように感じた。どうやら魔晶石のお陰で本当に魔法の効果が上がったらしい。
 だが、今はそこまで言ってやる気力も体力もなかった。出来ることなら泥のように眠りたい。
「……疲れてるんだ。早く言え」
「疲れてる割に横柄な態度は相変わらずだな……。お前の相方は順調に回復してるよ。たかだか一日で飛躍的に直ると思われても困るけどな」
「一日?」
「朝からで、もう日暮れだ。一日は言い過ぎか」
「……そんなにかよ」
「まだきついだろ。寝てていい」
 起きれそうにないのは明らかだった。全身が重い。ここはロマの言うとおり、しばらく言葉に甘えた方が良さそうだった。
「そうする」
 ロマは頷くと、機材や道具の片づけに入った。その音を聞きながら、ギレイオは問う。
「……俺、何か言ったか」
 片づけながら、ロマは笑う。
「寝言か? そんなに変な夢でも見たのか。なら安心しろ、何もない」
 ならいい、とだけ答えて、ギレイオは深い呼吸を繰り返す。眠りについたギレイオを振り返り、ロマは深く息を吐いた。



 施術室を出たロマは、詰めていた息を吐いた。ギレイオの様子から、易く声をかけていい風にはなれず、妙な緊張がロマを包んでいたのである。片づけもそこそこに退散したロマを、ワイズマンとサムナが迎えた。

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