Piece9



「君の左目とサムナ君のどちらに価値があるかなんて、わざわざ説明しなければなりませんか」
「……別にいいですよ。説明したところで、順番に変わりがあるわけじゃないんでしょう」
「おや、物わかりのいい」
 驚いた風に目を丸くする様が、また小憎らしい。ギレイオは引きつった笑みを浮かべた。
「ええまあ、そりゃあどうも」
「猿も数年経てば学習しますか」
「蛇に言われたくねえ」
「では、蛇によっては一発必中の毒があることもご存じですね」
「……あんた機嫌が良くてもその態度か」
「相手を敬うこともまともに出来ない人間に、払う敬意の持ち合わせがないもので」
 ですが、と言って白衣のポケットから紙に包まれた品物を取り出す。ギレイオの近くのテーブルに置くと、重みのある音がし、その大きさにギレイオはぴんとくるものがあった。
「俺の目か?」
「敬語」
「……目ですか?」
「そうです」
 包みを開くと、透明度の高い青色の光がこぼれだす。
 ギレイオは瞬間的に身構えた。
「……魔晶石だろ、これ」
「うちにある物の中でも質の良い物です。不満があるようですが?」
「魔法の威力が上がる」
「発動すればの話です。……まあ、遅かれ早かれ、君の魔法は噴き出すでしょうが、その威力の減退や、発動までの時間稼ぎに魔晶石が必要なんですよ、と言えばご理解いただけますか?」
 ギレイオは何かを言おうとしたが止め、言葉を飲み込んだ。そして、不承不承といった体で頷く。
「なら結構。ついでに、我々の魔法の効果も上がります。リスクはありますが、得られる効果は大きい。それに、君の魔法を押さえ込むのに魔石ではもう役不足なんですよ。それに関しては自分がよく知っているでしょう」
 唇を噛み、ギレイオは耐える。どれだけ悪口雑言を並べ立てても、その果てにギレイオが用意出来る解決策などない。
──だが、怖い。
 知らぬ間に変容を遂げていた自分の魔法が、その為に変えざるを得ない手段があることが──そして、止まっていると思い込んでいた時計が、実際は大きく針を進めていたことが、ギレイオの足下をぐらつかせる。
 どれだけ進もうとも、ギレイオにはその時計を見ることが出来ない。わかるのは、確実に「その日」が迫っているということだけだった。
 それまでに、生き急がねばならない。
 いつか「その日」が来たら、笑って去れるように。
「……わかってるよ。それでいいから、さっさと済ませてくれ」
 ワイズマンは鼻から息を吐いた。
「既に石の加工は済んでいます。お急ぎのようですから、ありったけのサービス精神を動員すれば明日にでも出来ますが?」
 硬くなっていたギレイオの表情に、苦笑いが浮かんだ。
「……代償が怖いですよ、先生」
 これに対し、ワイズマンはにやりとした。
「それは後ほど、応相談ということで。結構です、明日やりましょう」



Piece9 終

- 169 -

[*前] | [次#]

[しおりを挟む]
[表紙へ]




0.お品書きへ
9.サイトトップへ

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -