Piece9



「やっぱそうくるか」
「彼に魔法が使われているのは知っていたのか?」
「……まあなんとなく。魔晶石を使ってるくらいだし、そんな気配もあったし」
「それがえらく強力な魔法でな。分析しようにも弾かれて、どんな魔法なのかさっぱりわからない」
 だから、とロマは溜め息交じりに言葉を吐く。
「その魔法を包括する形でオレたちの魔法を被せて、元々の魔法の効果を促進させてみてるんだが、それがどれだけかかるかはわからないぞ」
「マジかよ……」
「急ぎのところ悪かったな。こればかりはどうしようもない」
 悪い、と言いながらも、ロマは涼しい顔でお茶をすする。新天地を求めて旅立とうとしていた自分を、引き止めたギレイオへの仕返しのつもりだろうか。だとしたら、あまりにも効果覿面すぎた。
 早く行動を起こさねば、またエインスたちに居場所を嗅ぎつかれないとも限らない。加えて、ワイズマンとの生活は精神衛生に非常に悪い影響を与える。ギレイオが言うところの健全な生活に戻るには、ここからすぐに退散することが手っ取り早い方法だった。
 あまりにも落胆するギレイオを見て、ロマは呆れたように問う。
「お前、そんなに嫌か」
「お前だって逃げようとしたろ」
「オレのは再出発。失敗したけどな。まあ、お陰でこんなめっけものにあやかれたわけだが。……というか、お前まだ目のことがあるんだから、急いでも仕方ないだろう」
 ギレイオはきまりが悪そうに視線をそらした。
「いや急いでもしょうがないってのはわかるけどさー……急がないとやばいってのもあるしさー……」
「……どれだけ世間様に喧嘩売って生きてきたんだお前は」
 じっとりとした目つきで見やるロマには構わず、ギレイオは盛大な溜め息をつく。
「俺の目そっちのけでサムナにかかりっきりだもんなあ。……順番しくじった」
「自分の手際の悪さを嘆くだけならまだしも、こちらにも非があるような言い分は心外ですね」
 絶対零度の声が響き、ロマは慌ててお茶を飲み干すとそそくさと施術室に引っ込んだ。後はまかせた、とその背中が物語り、自分は関わらないとでも言いたげに扉も閉められる。ロマの逃亡事件以降、ワイズマンの風当たりはロマに対しても強かった。ギレイオの巻き添えをくらって、ロマにまで飛び火する可能性がないとは言えないのである。
 一方で、飛び火することで自身への集中砲火が少なくなると踏んでいたギレイオは、このところロマも巻き込むことに必死だったのだが、今回に限ってそれは失敗に終わった。条件反射で逃亡へと転じる素早さで言えば、ロマの方が年季が入っているらしい。
 ともかく、二人の不毛な駆け引きなど無視をして、ワイズマンは階段を下りてきた。

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