Piece9



「……思ったよりも生体部分が多かったですね。体表面の全てが生体で覆われているのには驚きましたが」
「データの整理と精査の前に、目視による観察やメモの整理をした方が良さそうですね。ロマ君は経過観察を。僕は似たような例がないか探します」
 はい、とロマが頷くと、ワイズマンはギレイオになど目もくれず、屋根裏部屋へと階段を上っていった。あれだけ興奮しているワイズマンを見るのも珍しい、とギレイオが横目で追っていると、ロマが白衣を脱いで声をかける。
「疲れたか」
「相方の解剖なんか付き合うもんじゃねえわ……」
 小さな台所に立ち、ロマはお茶の用意を始めた。やはり研究者より主夫が似合いそうな男である。
「グロテスクとか言うんじゃないぞ。あれは芸術品の域だ」
「いや、グロい。普通なら吐く」
「治療に無理矢理参加しといて、その言いぐさはないだろう」
「治療じゃねえ、修理」
「……どちらでも構わないが。生体と機械の融合に無理がなさすぎる。新しい生命体と言ってもいい」
「人の相方を物みたいに言わないでくれますかね。お前らにとっちゃ新しい発見かもしれねえけどな、俺にしたらあいつはただの相方だ」
 ロマは目を丸くし、次いで、大きく息を吐いた。
「お前、本当に変わったんだな……」
 なにが、と不機嫌そうにギレイオは尋ねる。
 ロマは沸騰したお湯をポットに入れ、充分蒸らしてからコップに注いだ。
「自覚がないのなら言う必要もないな」
「師弟そろって嫌な奴……」
「先生と一緒にしないでくれるか……」
 心外そうに言いながら、お茶の入ったコップを手渡す。ふわりと甘い匂いがした。
「じゃあオレの名誉のために言うが、お前が他人のことで怒るのが意外な気がしたんだ」
「そこまで人でなしかよ……」
「今だって人でなしだろうが。人間嫌いは多少、マシになったみたいだがな」
 さらりと言い放たれ、ギレイオは何かを言おうとしたが止めた。何を言っても言い訳じみて聞こえるし、ロマの意見には賛同しかねる部分もある。自覚がないのに反論を唱えてもしょうがない。
 お茶を口に含み、甘いとひとしきりまくしたてた後で、ギレイオは話を変えた。
「サムナの腕と腹はすぐに直るのか」
「どうかな。核になる機械部分は随分綺麗になっていたが。あれ、ゴラティアスだろう」
「……」
「むくれるな。この業界であれだけ精緻に修理出来る修理屋は彼しかいない」
「俺も修理屋ですけど」
「お前のは時々雑になる。……ともかく、彼が手がけたなら機械部分の基本は大丈夫だ。生体部分も一日あれば元の状態にまで回復するだろう。ただ、機械と生体の融合には時間がかかる」
 ギレイオは嘆息した。

- 167 -

[*前] | [次#]

[しおりを挟む]
[表紙へ]




0.お品書きへ
9.サイトトップへ

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -