Piece9



「普通の閃光弾でこうなるかよ。あの野郎、滅茶苦茶なもんかましやがって」
「改造品か自作か……なんにせよ、これからは彼にも注意した方がいいな。何を仕込んでいるかわからない」
「どうせ注意するったって、伝家の宝刀の魔法ぐらいだろ、あいつの場合」
 しかも、と言ってエインスは嘲笑を顔に浮かべる。
「あいつ、びびって魔法も使えないのな。力を持ってるくせに使わねえなんて、馬鹿かっての」
「……だが、警戒するにこしたことはない」
 同じことを繰り返すディレゴに、エインスは表情を硬くした。
「はいはい、そうですね。物理的なもんなら一度くらえば学習する。……そういう風にしたんだろ、お前が」
 険を含んだ目で見据えると、ディレゴは何も言わず、その視線から逃れるように周りの機材を片づけ始めた。
 エインスは寝台に腰掛け、静かすぎる室内を見渡す。
 豪奢な造りの部屋である。床には毛足の長い柔らかな絨毯、金によって装飾が施された壁、ただの柱にまで美術品のような美しさを求め、エインスが「年季の入った」と評した窓にも同じことが言える。
 とにかくだだっ広いそこは広間と言うに相応しいが、調度品の類はない。これだけの広間にならあるだろうテーブルも、椅子も、チェストも、その美しさを引き立たせるような花の類もありはしない。あるのはエインスも見慣れた機材と、寝台と、エインスとディレゴの二人だけである。派手な広間と無機質な中身は、見る者にちぐはぐな印象を与えた。ど真ん中を使うのは躊躇われ、広間の隅っこでこじんまりとディレゴの研究室は展開されている。
 エインスはこのちぐはぐな広間で生まれた。
 正確には目覚めたのがこの広間だったわけだが、エインスにとっての世界の始まりはこの広間と、ディレゴの顔だった。
 久しぶりに見回した広間は思ったよりも小さい。空間認識にずれが生じているのかとも思ったが、目以外に損傷を受けた報告はなかった。ただ、エインスの中にあった記憶と今目にしている物が、どうにも合わない感じがしてならなかった。
──この広間はこんなにも小さかっただろうか。
「……あいつらは?」
 片づける手を休めず、エインスを見るでもなくディレゴは答える。
「食事だ」
 エインスは盛大に顔をしかめた。
「まだあの気持ち悪いことやってんのかよ」
「お前も目覚めたら来るようにとのことだ。行ってこい」

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