Piece9



「だが石は……」
「違うな。だから、ギレイオの魔法の蓋に選んだというのもあるが、それだけじゃ心もとない。いずれ分解されるだろうが、その時間を稼ぐための保険として、機械なんだ。正直、これまでよく封がもったと思うよ。今も、ギレイオの魔法は封を食い破ろうとしているだろうから」
 サムナは視線を床に落とす。
「……ギレイオの魔法があいつの思い通りにならないのも、あいつの魔法の特徴なのか」
「だから厄介だ。ギレイオ本人にやる気がないというのも一因だけどな。大きな犬に綱をつけたところで、振り回されるのがオチだろう。だから、その犬を強固な檻に閉じ込める。だが犬は強く、大きい。わずかな隙を見て爪を出す。それが暴走だ。……暴走すれば、間違いなく魔法はギレイオを食い尽くす」
 ロマの言葉に顔をあげた。
「ギレイオの魔法なのに?」
「だからこそなんだ」
 大きく息を吐いて中空を見つめる。
「オレたちは魔法を選べない。だけど魔法はオレたちを選ぶ。不公平だと思うよ。……ギレイオでなくても、神様を恨みたくなる」
 どうしようもない、どうにも出来ない──人が働きかけることの出来ない力がそこに介在しているのなら、恨みすらも空に放つだけの無為な情動である。
 それでも恨まずにはいられないだろう。
 ギレイオの過去に何があったのかは知らないが、頼みもしないのに選ばれて、いつかは触れるもの全てが消え、そして自らも食い尽くすであろう怪物を飼わされる羽目になれば、彼の魔法に対する憎悪は真っ当な感情である。例えそれが無駄な足掻きだとしても、足掻かずにはいられない。
 きっとそうすることでしか宥められないものを、感情と言うのだろう。



 学校の朝は早い。
 早朝、山間から朝日が手を伸ばそうかという頃、朝靄に沈む森に厳かな鐘の音が響き渡る。微睡みの中にあった学校はゆるゆると活動を始め、朝日が昇りだした途端に勢いよく目を覚ますのだ。静かだった森に、あちこちで人の気配がし始める。森に入ってくるわけではないにしろ、止まっていた空気が動けば自ずと森も目を覚ます。
 そうして、本人いわく、「叩き起こされた」ギレイオは不機嫌そうな顔を隠しもせず、顔を洗って着替えを終えた。朝食、と言って渡されたのはパンと温かなお茶のみで、清貧を訓戒にしているわけではないだろう、というギレイオの言葉に対して返ってきた言葉が、「金がない」だった。
 当然、それには二人も随分な経験を積んでいる。加えて、自分たちは予期せぬ来客でもある。朝食が出てきただけでも、ありがたく思わなければなるまい。

- 161 -

[*前] | [次#]

[しおりを挟む]
[表紙へ]




0.お品書きへ
9.サイトトップへ

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -