Piece9



「思ったよりも早く、と言えば理解出来ますか」
「……納得出来ねえ」
 それだけ呟くと、ギレイオは薪になりそうな木を集めてくると言って、森の中に消えていった。



 サムナはページをめくった手で、その図面をなぞった。
 何度も書き直され、おそらく事あるごとに足されていったのだろう走り書きは、場所によってインクが滲んでいる。何度もこの場所を読み返した人の手が成したものだとサムナにはわかった。
「ギレイオの義眼が魔石なのは知っているか」
 サムナは顔をあげ、頷いた。
「魔石と言っても、ただの石だ。はめ込んだところで視力が回復するわけじゃない」
「だが、ギレイオには視力がある。右目よりは悪いが」
 ロマは苦笑する。
「それがオレたちの限界だ。とは言え、それを越える物はまだ世間にはないようだけどな」
 ギレイオの義眼は、と言って、ロマは人差し指と親指で環を作り、両方の指が接した所を示す。
「完全な球体に磨いた魔石と、少しの機械で生体と繋がっている。……ここでな」
「眼底に来るようにか?」
 理解の速い相手の登場に、ロマは破顔した。
 ここで友人を作るというのは夢想に近い望みだが、知識を研鑚し、互いに高め合える友人がいれば、と望まずにはいられなかった。ワイズマンは友とするにはレベルが違いすぎたし、学校の生徒を捕まえるわけにもいかない。なによりもまず、彼らは不法に入り込んでいるのだから、おおっぴらに動くこともままならないのだ。
 話のわかる相手、それも自分に近しいレベルで話せる相手がいるというのは、こんなにも気持ちが弾むものかと、ロマは少し驚いていた。
 一方で、ギレイオとは、こうはなれないと思う。こういう話を好んでする人間ではなく、そもそも人付き合いを積極的に避けているあの少年が、誰かと長い時間を共有するなど考えられない話だった。ロマは自分にそんな人間の心を宥める力があるとは思えず、ギレイオとはよそよそしい付き合いしかしてこなかった。寂しい間柄だったとは思う。
──だが、変わった。
 サムナの何がそうさせるのか、ギレイオの何が変化したのかは、今のロマにはわからないが、今度は嫌がっても話しかけるぐらいの厚かましさがあっても、ギレイオはそれを寛容してくれるだろう、という思いがあった。

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