Piece9



「まずいところ立ち寄ったとか、一瞬焦ったじゃねえか……」
「どうだろうな。まずいと言えばまずいかもしれないが。ステップを飛ばすなんて、普段の先生ではあり得ないことで、しかも飛ばした結果は全て失敗した」
「……まずいだろ。それ」
「だから他にもいた仲間は軒並み逃げていったし、オレもそのつもりだった。失敗したけどな。狂科学者ってあるだろう? 最近、ちょこっとその気が出てきているんだよなあ」
「いや暢気に言ってる場合じゃないから。それ本気で止めろって」
「無理だよ」
「お前が無事でも俺やサムナはただじゃ済まねえだろ!?」
「サムナはまさに研究対象そのものだし、お前は先生とオレの唯一の成功例だからな」
 ギレイオは苦虫を噛み潰したような顔になった。
「だーかーら、それやめろ。成功例とかむかつくんだよ」
「事実だろう。お前の左目は研究成果の晴れやかな第一歩だ」
「って言って、痛くて気絶してる奴の側で祝杯上げるか普通!?」
「ああ、あの時の酒は美味かった」
「酒の感想なんかいるか!」
「だが、本当だ。お前は確かな成果の一つなんだよ」
 ロマの瞳に宿る真剣さは揺るがない。冗談で応酬しつつも、彼には確固たる真実が見えている。
「機械と生体をただ融合するだけでは駄目なこと。その触媒として魔法が、媒体として魔石なり魔晶石なりが必要なこと。……妄想が現実になった瞬間だ。喜んで悪いと言われても、オレや先生は喜ぶさ」
 無論、声にも揺らぎはない。ギレイオも返す言葉を失い、忌々しげに息を吐くと、「散歩してくる」と言って階下に降りていった。屋根裏部屋の小さな窓からは、夕暮れの陽が見えている。
 ギレイオがいなくなったことで、とたんに静かになった屋根裏部屋で、ロマは詰めていた息を吐き出した。
「……ギレイオの左目には、機械があるのか?」
 静かになった室内で、サムナの言葉がぽつんと落とされる。
 ロマはサムナを見返し、そして苦笑した。
「見たことはない……だろうな、あの様子じゃ」
 そう言って立ち上がり、部屋の奥に林立する本棚の中から一冊の古い日記帳を取り出して、戻ってくる。古い割には埃も被っておらず、表装の色も鮮やかだ。どうやら頻繁に持ち出しているらしく、目当てのページをめくるロマの手にも迷いがない。
「日記帳を使ってはいるが、中身は毎日の研究の経過と総括みたいなものなんだ。先生の受け売りでね。こうするとまとめやすい。……これを使っていた時、ギレイオがここに来た」
 数ページめくったところで、ロマは手を止め、開いた日記帳をサムナに渡した。

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