Piece9



 落ち着いた声でロマは言う。一瞬、何を指しているのか理解が及ばず、数秒考えた後に、サムナは自分のことを指しているのだと理解した。
「おれを?」
 ロマは大きく頷く。
「そう。難しく言えば、機械的生命体の研究。機械工学と生命科学の融合を成す生命体の創造と研究が、先生とオレがここでしていることだ」
「つまり、お前はこいつらにとっちゃ最高の研究対象ってことだよ」
「その通り。ほとんど妄想の域に入ってくるような研究だから、その文献や資料もさしたる根拠のない、それこそ机上の空論を並べただけのようなものも多い。だからわざわざデータ化まではしないんだ」
「ついでに付け加えると、生命体の創造ってところがネックになってるっぽくてな。人の倫理に反するだの、神様への冒涜だの等々で、世間からはそっぽ向かれてる研究なんだよ。だから公には情報が残りにくい」
 まあ、と言ってギレイオは嘆息した。
「世間っつっても、専門家の間でだけの話だから狭いもんだけどな」
「その狭い世間でも、そっぽを向かれると厳しいものなんだよ。先生だからこそ研究を続けていられるようなものの、ここを離れたらまず、同じ環境が手に入ることはない」
「……じゃあ何で逃げようとしたんだよ」
 きょとんとしてギレイオが問うと、ロマは途端に表情を暗くし、これまで以上に深い溜め息をついた。そして視線を落として逡巡した後、意を決したようにもう一度息を吐いて、話し始めた。
「……今言ったように、研究の素地となる部分があまりにも少なすぎる。一番いいのは研究対象そのものを見つけて研究することだが、それも難しい。……まあ、これはお前たちが来るまでの話だけどな」
 苦笑を滲ませて言うが、その顔には隠しきれない疲労が見える。
「だから先生は少し、研究のステップを飛ばそうと考えたんだ」
 ここまで来ると、ギレイオにもぴんと来るものがあった。
 ギレイオは思わず身を乗り出した。
「おいおい、それって……」
「まあ、自分で作ってみようかと考えたんだな、先生は。……いや、さすがに人間にまでは手を出さないから」
 ギレイオの表情に、越えてはならない一線を越えたのではないか、という危惧が見え、ロマは素早くそれを否定しておく。ワイズマンならやりかねない、とギレイオが思うのも当然ではあるが、それではさすがに彼の名誉に響くというものだった。一応は助手である手前、自分がそれに加担したと思われるのも気分が悪い。
 案の定、ギレイオはそう思っていたようで、ロマの言葉にあからさまに安堵した表情を浮かべる。

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