Piece9
「でも、オレにとっては研究が生活だから。ここにある資料や本は、一応はオレの私物でもあるんだよ。それ以外の物は割といらないな、オレは」
ギレイオは頬杖をついて、呆れたように言う。
「いつ蒸発しても痕跡残らなそうだもんなー……そういう理由もあんのかと思ってたけど」
「そうなったら、まず資料の山をどうにかしないとな。命よりも大切なものだから」
「大切なもんをそこらへんに散らかしとくなよ」
「片づけたって散らかす人がいるんだよ」
わかるだろ、とでも言いたげに溜め息をつく様がおかしく、ギレイオは笑った。
そんな二人を見るともなしに、辺りに散乱する本や紙束を珍しそうに見つめるサムナを認め、ロマが声をかける。
「珍しいか?」
ああ、と答えながらサムナはロマを見据える。
「紙媒体の資料がこんなにもあるのは……多分、初めて見る」
多分、とつけたのは己の記憶が曖昧だからだった。ゴルの所では走り書きのメモ程度でしか見かけることがなかった。だが、ロマはサムナのそれを謙遜と見たらしく、多分、という言葉を引用して答えた。
「まあ多分、公共の施設以外ではここが一番だと思う。少なくとも、オレが知っている中ではの話だけどな。紙はかさばるからって、データ化するのが今だから」
「しないのか?」
「機械がない。それに、そんなのをやる暇があったら、資料を漁ってる方がよっぽど建設的だろう。人手もないことだし」
「では……紙媒体の資料しかなかったということなのか?」
ロマは少しだけ目を瞠った。
「面白い。そういう見方をするのはお前だけじゃなかったんだな」
お前、とロマはギレイオを指して言う。当のギレイオはだからどうしたという顔で見返すばかりで、口を開くことはしなかった。わざわざ言うほどのものでもないと思ったからである。
ギレイオが言わないのなら、説明する役は勿論、ロマに回ってくるのだった。
「まあ、その通りだ。オレたちが研究している事は、公に情報を残していいものではなかったから」
「……それはどういう」
ロマはちらりとギレイオを見たが、その表情が変わらないのを見て、なるほど、と思う。ギレイオはここに来た時点で、ある程度の情報交換がなされることを承服し、そして望んでもいるようだった。
ならば、話すにはやぶさかではない。
「君だ」
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