Piece9



「サムナ君の方を? 君ではなく?」
「俺のは後からどうにでも出来るから、まずはサムナを診てほしいんですよ」
「ほう。……時に」
「は?」
「サムナ君は普通の人間ではないですよね。僕に頼むあたり。具体的にどう普通ではないのか教えてくれますよね」
 ギレイオが話して当然とでも言うかのように、ワイズマンは笑う。言わなければどうなるのかは明白だった。
 ギレイオは嘆息し、答える。
「その通り。こいつは人間じゃない。人間を目指したみたいだけどな。骨格なんかの基本的な構造は機械からなる。動力は魔晶石、それ以外は生体を使っている。これで納得出来ましたか? 大先生」
 可愛げのない返答の仕方を、ワイズマンは言及しなかった。ギレイオの言葉を聞くうちに段々と身を乗り出し、最後には目の前に突如として現れた「非常識」を飲み込もうと、背もたれに背を戻す。一連の緩慢な動作の中には、ワイズマンにしては珍しい動揺が見て取れ、それは助手のロマにしても同じことだった。目を見張り、薄く開いた口から驚愕の言葉を出そうにも、それすら出来ないほどの衝撃がロマを打ち抜いたようだった。
 しばらく、身動き一つせずにギレイオの言葉を斟酌していたワイズマンはちらりとサムナを見ると、小さく息をついた。
「盗んだわけではありませんね?」
 ギレイオは顔をしかめる。
「どいつもこいつもどうして同じことを言うんですかね」
「君が簡単に手に入れられるほど、易い技術ではないからです」
「言いたいことは大体わかってますよ。だけど、それをいちいちお披露目してる時間もないもんで、一言で片づけるなら『拾った』。俺にとってはそれだけですよ。それ以上やそれ以下は勝手に考えてくれてどうぞ」
「では勝手に考えて言いますが、僕が関わって安全である保証はありますか? それだけの技術の結晶がぶらぶら歩いて、ただで済むわけがない。君の言う時間がない、というのはそういう意味だと思うのですが」
「……勝手に学校の土地に陣取ってる奴が言う文句じゃないと思うんですが、先生」
「僕の行為は純粋な好奇心と知的探究心からなるものです。君の相棒は存在からして常識の範疇を越えています」
 しぶるワイズマンに、ギレイオは内心で舌打ちをした。
 研究馬鹿だから、と、サムナの正体を知れば喜んで診てくれるだろうと思ったのだが、どうやらギレイオのワイズマンに対する認識は少し間違っていたようである。ワイズマンは思ったほど馬鹿ではなく、高度すぎる技術に対しての警鐘は持ち合わせがあったらしい。もっとも、手放しに喜んでくれる馬鹿だったのなら、こうまで歪んだ性格にはならなかっただろう。この食いつきの悪さは計算外だった。

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