Piece8



 罪人でもあるまいに、とサムナが思っていると、ロマは振り向きざま、指で前方を示した。
「あれが、先生の家だ」
 木立ちの間隙のような小さなスペースに、すっぽり収まる大きさのログハウスが三人を迎えた。さして大きくもないが、小屋と言うには立派な構えで、屋根からは童話の舞台よろしく煙突が伸び、のんびりと煙を吐き出している。見つからないよう隠れている身にしては、随分、堂々とした生活態度だった。
「変わんねえなあ」
 ギレイオは過去の記憶と照らし合わせて言う。
 ロマは首を傾げた。
「そうか? 少し増築したんだぞ」
「これで?」
「そんな大々的にしてどうする……」
「あいつならやりそうだろ」
「やりそうだったからオレが止めたんだ」
 ギレイオは気の毒そうな目で見るばかりで、それ以上言おうとはしなかった。
 ロマの後に続いて歩きながら、ギレイオはサムナを振り返る。
「これから会う変態には余計なことは喋るな。でも、嘘もつくな」
「……情報は小出しにしろということか?」
「あいつのことだから面白がって根掘り葉掘り聞いてくるに決まってる」
「ついでに先生のことだから、首をつっこもうとするだろうな。それだけはやめさせてくれ」
 言外に自分も巻き込まれるだろうから、という意味を含めてロマが言葉を被せてきた。
 ギレイオもそれは否定しない。
「これ以上関わる人間の数が増えてもややこしいだけだ。だから質問されたことにだけ答えろ。手短に、答えの触りだけでいい。要点になる部分は出来るだけ隠せ」
「嘘をつくな、という言葉に反すると思うんだが」
「嘘をつかないのと隠すのは違う。言っていい事とまずい事を振り分けて答えろってことだ」
 サムナはログハウスを見つめて小さく息を吐いた。
「努力する」
 三人は短い階段からテラスにあがり、玄関扉の前に立った。
 見た目はどこぞの静養地にありそうな代物だが、その先にある現実を知っている者にしてみれば、まさに地獄の窯の蓋に等しい。開ければ何が飛び出してくるかわかったものではない──間違いないのは、それが自分にとっては限りなく災厄に近いものであるということだけである。

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