Piece8



「うちの相方褒めてくれてんの」
「お前なあ……」
 呆れたようにギレイオを見る。昔馴染みを相手にするような親しさがそこにはあった。
 探索せずに歩けば、丘を上るのは大した労苦ではなかった。元々が低い丘である。緩やかな斜面を伴って形成されたものだから、上る、と言っても体を傾けるほどのものではない。近況などを言い合いつつ歩けば、ものの数分で学校の外壁にたどり着いた。
 サムナが遠目に見た通り、苔むしたレンガは古く、隙間なく組み合わさったレンガの表面や角は所々が欠けている。雨風に晒されて元の色は既にわからなくなっており、更にその上から覆いかぶさるようにして蔦が腕を伸ばしているため、くすんだ茶色が葉の向こうに見えるだけだった。見上げるほどに高い壁が蔦に覆われていると、緑の化け物がそこに立ちふさがっているように見える。
「……壁だな」
 出入り口はなさそうだ、という意味も込めて、サムナが呟くと、ロマは「いや」と近くの蔦を持ち上げた。
 そこには学校への入り口が、口を開いて三人を迎えた。
「オレたちにとっては玄関だ」
 壁をハンマーか何かで壊したのか、人一人が通るのでやっとの大きさの穴が壁の下方に出来ている。穴そのものには特に何かを施した風でもなく、少し肩が触れれば飛び出したレンガの角が欠け落ちるなどというのもざらだった。厚く覆った蔦で上手く隠されているものの、その原始的な方法に疑問を抱かざるを得ない。
「……色々と疑問があるんだが」
「ここに出入り口があることか? それとも魔法で隠してないことか?」
 前を行くギレイオがわずかに振り返る。壁と言ってもその厚みは数十センチもある。まさか人力で壊したわけではないだろうが、穴の輪郭を見るに、それも否定出来なかった。
「これは人力で作ったのかという疑問もある」
「まとめて答えてやると、ばれないためだ」
 壁の穴を抜けると、そこは林よりも鬱蒼とした森だった。背の高い木々が互いに腕を組み合い、その間からかすかに零れ落ちる陽光が地面にまだらに模様を作り出して美しい。
 背を丸めて通り抜けなければならなかったギレイオは、腰を伸ばした。
「ここじゃ魔法で行ったことは誰にでもわかる。誰が、ってのまではわからないにしても、どんな魔法が使われたぐらいはわかっちまうもんなんだとよ」
 だろ、と同じく腰を伸ばしていたロマに話を振る。
 ロマは頷いた。
「街では魔法が使えないのは知っているだろう。だが、ここは魔法学校なんていう特例の場所だ。特例なりに自由もあればルールもある。魔法が使えるかわりに、使われた魔法の管理もされているんだ。ギレイオが言ったように、人物までは特定出来なくても、何が使われたのかはわかるようになっている」

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