Piece8



「断る!」
 男はギレイオの腕から逃れようとするが、生憎と腕力はギレイオの方が上のようだった。その手はびくともしない。
「行くなら自分たちだけで行け! オレを巻き込むな!」
「やーそうもいかねえのよ。お前の手も必要なんだよな」
「生贄にでもする気か!」
「それもあるけど、お前の魔法が必要なんだ」
 男は暴れるのをやめ、ギレイオを見据えた。
「……目か」
 ギレイオは苦笑いを浮かべた。
「それもある。ようやく協力する気になったか」
 男はしばらくギレイオを見つめた後、観念したように嘆息した。



 来た道を渋々戻る男の足取りは重い。それでも、わざと道を外して人目に晒そうとはしないのだから、ギレイオの言葉に何かしらの責任を感じ取り、それを遂行しなければならないと思うくらいには、人が好いようだった。逃げた先に戻る恐怖に勝る責任とは何なのか、サムナには皆目見当がつかなかった。
 今度は密やかな行動を取るでもなく、三人は堂々と林の中を進んだ。
「これに大した意味はないからな」
 効果を失ったらしい魔石をまたいで男は言う。
「ねえの?」
「学校側としてはな。不法侵入したところで、袋叩きにすればいい話だし、大して監視もしちゃいない。外に向けての抑止の意味合いしか持たないんだ。……でもまあ、うっかり触れればこちらの動きはばれるし、無駄というわけでもないんだけどな」
 男はサムナを振り返った。
「そちらは?」
「サムナ=ノーマス」
「そうか。オレはロマ=ファルティーマ。ロマでいい」
 ロマはしばらくサムナを見つめた後、ギレイオに言った。
「用があるっていうのは、彼のことか?」
「わかる?」
「まあ、そこそこ」
 そう言って溜め息をつく姿には、この先の苦労を悟っているような雰囲気があった。
「お前が組むぐらいの相方だ。普通の人間じゃまず無理だよ」

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