Piece8



 怒りで言葉に詰まる男は、ギレイオの襟を掴みあげる。サムナが止めに入ろうとするが、当のギレイオは男にはわからないよう、体の後ろでサムナに「来るな」と指図した。
 男は詰まった言葉を絞り出すように大きく息を吸うと、同じような勢いで吐くと同時に両目から大粒の涙をこぼし始めた。
「お前が消えたせいでオレたちがどれだけ不憫な扱いを受けたか、想像できるか!?」
 それだけを大声で言うと、男は掴みあげた襟に顔をうずめておいおいと泣き始める。
 ギレイオは呆れたように溜め息をつき、「はいはい」とその頭を軽く叩いた。
「悪かったなあ、想像出来たけど俺もあれ以上は無理」
「オレも無理だ!」
 男は顔を上げて抗議する。と、その視線の先に見慣れぬ第三者であるサムナがいることに気づき、途端に顔を赤くしてギレイオを離して涙を拭った。
「誰だ、そいつは」
「俺の相方。ちょっと用があって来たんだけどさ」
「お前の? お前が? 人とつるむって?」
 男は真っ赤な目を袖口で拭い、まじまじとサムナを見つめた。
 それからギレイオとサムナを見比べ、サムナに向かって言う。
「借金のカタにでもされたのか? 大丈夫か? 逃げるなら協力するぞ」
「……てめえも大概失礼だよなあ」
「当たり前のことだろう。お前が人と組むなんてありえない。ありえないことの道理を通すためには理由が必要だ」
「それが借金のカタだって?」
「それ以外に何がある」
 言い切ってから、男は気づいたように声を上げた。
「あ、逆か。彼が借金とりなのか」
「……口は随分元気じゃねえか。さっきまで逃げてた奴とは思えねえな」
 逃げてた、という言葉に男は自分の目的を思い出したようである。再び林を振り返り、何も変化がないことを見て取ってから、息をつく。
「悪いがお前らに付き合ってる暇はない。用があるなら勝手にしてくれ」
 半ばギレイオからも逃げるように踵を返し始めた男の腕を、ギレイオは素早い動作で掴んで引き止めた。
「いやいや、用があるからお前が必要なんだよ」
 男は目を見開く。
「……お前、用って先生にか?」
「そうなんだけどさー。一応手土産っぽいものも持ってきたんだけど、あと一押し足りねえんだよな。そこで、お前」
 ギレイオは男を指さす。指された当人の顔面から血の気が引くのが見えた。
 ギレイオは笑みを崩さない。
「脱走者を見つけて、更に連れてきゃ覚えもいいだろ。これで過去のあれやそれは帳消し、俺は健やかな気分で頼みごとが出来る」
「オレの気分は無視か!?」
「知るか。詰めの甘い奴が悪い」

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