Piece8



 その時、すう、と冷たい風が通り過ぎ、小道に落ちた葉をそっと持ち上げる。ほんの一瞬吹き込んだ風に乗って葉はゆらゆらと宙を舞い、地面に戻ろうというところでふと軌道を変え、林の中へ緩やかに着地しようとした──その時だった。
 木々が作り出す暗がりから、まるで何者かが手を突出し拒んだように、葉は林の手前でくるりと一回転すると、小道の方へと逆戻りしたのである。
 元の場所に戻った葉も、それを拒んだ林も、素知らぬ顔で日常へ戻ろうとしていたが、その様子をじっと伺っていた二人はそれぞれの反応を見せた。
「よーし、やっぱりあそこはやってねえな」
「……あれが警報か」
「積極的に攻撃するためのもんじゃない。入ったものを迷わせて拒むもんだ。だから自然物でもああなるし、動物でもああなる。入った奴はわけもわからず元の道に戻るって寸法」
「お前にはその警報が見えているのか?」
「ちょっとだけな。今は魔法を押さえ込んでるし、大してわかるわけじゃねえけど。陽炎があるような感じに見えるって言やわかるか?」
「イメージとしては掴みやすい。それが無数にあるとなれば、随分、ここの風景は歪んだものになりそうだな」
「魔法なんてのはそういうもんだよ。実態を歪ませてなんぼってところだろ」
 ギレイオは立ち上がり、体を伸ばした。
「実際はあれよりもっと強力だけどな。あの程度ってことは、劣化してきてるんだ。さー、それじゃあさっさと行くかあ」
「……これまでの話を聞いてると」
「ん?」
「お前は随分ここに詳しいんだな。一般人がなかなか入れない場所のようなのに」
 ギレイオは思い出したように脱力し、項垂れた。
「……そこに強行突入して居座ってる一般人がいるんだよ」
 サムナは瞠目した。
「もしかして、それが……」
「目当ての人間。安心しろ、学校の建物の中にまでは侵入した話は聞かないから。今んところはな」
 では、いつかは入るかもしれない、肝の据わり方をした人間ということなのか、とサムナは目指す人物に対して、わずかに評価を足した。
 ギレイオはしばし様子を窺うようにしていたが、その内にサムナに「来い」とだけ言って小道から出た。小走りで林に入り込み、その場に体を潜めてギレイオはまた視線を巡らせる。そして、何かを見つけるとまた動く。
 そんなことを何回か繰り返して丘の中腹まで来た時、サムナは抱えきれなくなった疑問を口にした。

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