Piece8



「林を突っ切るのか?」
「昔のまんまなら捕まる。多分、今も一緒だろうなあ」
「捕まる?」
「ちょっとした警報装置がついてるんだよ。まがりなりにも魔法学校だし、抱えている知識も魔石も半端ない。ついでに魔晶石まであると思えば、ネズミの一匹や二匹入り込もうって思うのがいてもおかしくないだろ?」
「……それでこの壁なのか」
「視覚的にも物理的にも、ついでに魔法的にも防護の意味を持つ」
 ギレイオはその場にしゃがみ込んで頬杖をついた。
「まー神殿騎士団ご一行でもお出ましになって、ばかすか撃ちまくりゃわからんけどな。生憎と俺にはそういう力技は無理なんで」
 ギレイオは林の奥を見据えた。
 ただ見つめているだけではないらしいことに気づき、サムナもギレイオと同じくその場に屈みこんで問うた。
「何をしている?」
「道を探してる」
「門から入るんじゃないのか?」
「俺らが術者に憧れる純真無垢な少年に見えるかよ」
「身分証があるだろう」
「学校は全く別物だ。身分証一つで入れるなら、今頃ネズミが大活躍してるよ。……でもまあ、そういう奴らも奴らで懲りないもんでね。入れないとわかれば、入れる方法を模索するもんだ」
「林の中にそういう道があるのか」
「警報装置っつったって、丘一面に張ったんじゃ規模も魔力の消耗もデカすぎる。だからここのは小さい範囲を管理する警報を点在させてるんだ。一個で一つをカバーするより、多数で一つをカバーした方が実際、効率もいい」
 だが、と言って右斜め前を示す。
「それぞれがそれぞれを補っている分、一つ一つの力はおそろしく弱い。弱点が多すぎるんだ。しかも設置数が多すぎて点検にも手間がかかる。生徒の数は多いから生徒にやらせてもいいが、所詮は『生徒』だ。手抜きも不備もどっかにはある。じゃあ教師に、となるが、教師に至っては生徒ほどの数はいない。でもまあ、信頼性の問題で教師にそのお鉢が回るわけだが、ま、数もいないわ金もないわ時間もないわで、どうしたって手の回らない部分が出てくる。そこが狙い目なんだ」
 ギレイオが示した先はどうということのない、林の際である。あまり手入れされていない下生えから、この辺りでよく見かけるような灌木が伸び、互いに枝を絡ませるようにして暗がりを作り出している。小道を反射した陽光も林の奥までには至らず、葉の間から辛うじて零れ落ちるようにして差し込む光が遠目に見て取れた。魔法というものの素地がないサムナには、そこに何かしらの仕掛けがあるようには見えない。ギレイオには何か見えているのだろうか。

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