Piece7



「ギレイオのことをどこまで知っているのか、聞いてもいいか」
 ヤンケは一瞬だけ、息を飲んだ。そして飲み下した中から言葉を選ぼうとしたが、サムナの顔を見ていると、どうしてもネウンのことを思い出してしまう。そして、その顔を思い出すと、下手な嘘はつきたくないと思ってしまうのだった。
 ヤンケは少し視線を落として、サムナに問う。
「師匠とギレイオさんが、何か話してたのを聞いちゃったんですね」
 サムナは頷いた。
「全部ですか? それとも部分だけ?」
「ギレイオは、生き急いで早く死ぬつもりだと言っていた」
 それを聞いたヤンケは怒りたいような、泣きたいような微妙な表情を作り出す。
「まだそれ、言ってるんですね」
「……聞いたことがあるのか?」
 ヤンケは頭を振る。
「そういう風に、はっきりと言ったことはなかったですけど。多分、そのつもりなんだろうなあと思うことは沢山ありましたから。だから、私はギレイオさんのことが嫌いでした。いつか巻き込まれて自分も死んじゃうんじゃないかって。結構怖かったんですよ、ギレイオさん。今もたまに怖いですけどね」
 サムナはほのかに口元を綻ばせた。
「そうだな。……だが、ここに来てからは特にその風合いが強い」
 ヤンケは数秒黙した後、サムナに尋ねた。
「逆に、サムナさんはどこまで聞いてますか? ギレイオさんのこと」
「目のことと、魔法のことだ」
 サムナはわずかに息を飲みこんだ。
「……それぐらいしか、知らない」
 そうとしか言えない自分に、サムナは不甲斐なさを覚えた。何も知らないのに、知った気になっていたことが愚かしい。
 ヤンケはその表情を探るようにじっと見つめていたが、やがて、背もたれに深く背中を預けて呟いた。
「……それなら多分、私が言うのはやめた方がいいと思います。師匠からも、あまり聞かない方がいいかもしれません。サムナさんには知られたくないんだと思います」
「だが」
「わかります、それでも聞きたいんですよね」
 ヤンケは悲しそうに笑った。
「多分、聞いたらギレイオさんはサムナさんから離れると思います。だから、全部は話せないし、あんまり話したくありません」
「おれは逃げない」
 強く言い切った言葉を聞き、ヤンケは背もたれから背中を離し、サムナを見上げた。無言で見上げてくるヤンケの表情に気圧されるものを見て、サムナは緊張する空気を感じ取った。

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