Piece7



「じゃあ、弱くていい。どっかで野垂れ死ねば、万々歳だ」
「そうやって、死ぬまで抱え込むつもりか」
 ギレイオは手についた油をウェスで拭き、叩きつけるようにして地面に捨てた。
「生き急いで、早く死ぬつもりなんだよ、俺は」
 素早く、それだけを言うと、ギレイオは車の横を通って地上へ向かう坂道の方へ歩いていく。ランタンの光がその背中を追いすがるようにして、弱弱しく手を伸ばすが、ギレイオはついに振り返ることなく、暗闇の中に消えていった。
 その歩調に乱れはない。声には押し殺した感情が詰まっていたが、ギレイオの心を揺さぶるほどのやり取りではなかったということだ。
 ゴルは喉の奥につっかかったやりきれない思いを、嘆息と共に吐き出した。
──あれが、答えなのか。
 幼いころにゴルの元へ来てから今日に至るまでずっと、ギレイオが一人でもがいて、一人で出した答えだ。それはもはや揺らぐことはなく、ギレイオの中でしっかりと根付いてしまっている。
 視線を地面に落とし、塞ぐ気持ちをどうにかしてなだめていた時、不意に背後で足音がして、ゴルは振り返った。
「……なんじゃ、お前さんか」
 サムナが何とも言い難い顔で立っている。
「調子はいいのか?」
「通常行動に戻れるくらいには。戦闘は控えた方がいいようだが」
「まあな、そうしておけ。無理をすれば直るもんも直らん」
「ギレイオが怒っていたな」
 ゴルは少しの間、黙った。
「聞いていたのか?」
「ギレイオを呼びに来たら話が聞こえて、聞くつもりはなかった。……だが、出ていくことも出来なかった」
「やっぱり、妙なところで人間らしいの、お前さんは。……ギレイオのあれは怒っているのとは違う」
「違う?」
「あれは答えじゃ。今回こそ、どうにかして逃げ方を変えさせようとしたんじゃがな……あいつの答えをわしが無理矢理引きずりだしてしまった」
「……出してはいけない答えなのか?」
 ゴルは苦笑する。
「少なくとも、他人が引き出していい答えではない」
 ゴルは膝に腕を置いて両手を組み、そこへ視線を落とした。
「わしが引き出したことで、わしはあいつに覚悟をさせてしまった」

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